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2012年1月14日 (土)

キネマ航空CEO 映画館に行く-連合艦隊司令長官 山本五十六

街に出たときに立ち寄るカフェテリアで櫻井よしこ氏が週刊誌に寄稿した提督山本五十六の評伝を読む機会があった。同じ旧制米沢高校の(新制移行後の)同窓の後輩にあたるそうで敬愛にあふれた文章でした。

そういえば同じ同窓生の半藤一利氏の原作「山本五十六」を底本として氏の監修による映画が公開されていたのでDVD化を待たずに劇場で鑑賞することにした。

山本提督は軍人の伝記映画として何度も映画化されているが軍人映画としてはこれまでと変わっているとも思えません。強いてあげれば半藤氏の分身と思われる新聞記者を登場させて戦争は国民が望んでいたことその背後にジャーナリズムによるプロパガンダが色濃く影響している点に踏込んだことかと思えます。

また、井上軍務局長が海軍の三国同盟賛成をせまる軍令部の将校にヒットラーの「我が闘争」の原著と欠落した日本語訳を比較して論駁するシーンなどはまさに半藤氏が観客に託す現在への警鐘でもあります。

しかし結果的には個々のメッセージは埋没してしまい当CEOには高級軍人を描いた映画としては中途半端と感じられました。

別に日本映画だけではないが、なぜ家庭生活を描かねばならなかったのかの不満がのこります。このシーンに費やした数分間を山本が関わった政争や作戦立案、戦闘遂行の推移のシーンに充てなかったのは残念でなりません。

この点では「パットン大戦車軍団 “PATTON ” (1970)」の(かなり薄められているとしても)軍人としての行動や言動から人間を描く構成には遠く及ばない日本映画の弱点です。しかし、いっぽうでは、こうでなくてはならぬ姿として日本の偉人の伝記映画には必要とされてもいるようです。

さて、映画には表現の限界があることは認めるにしても「連合艦隊司令長官 山本五十六 (2011)」にも故意に変更もしくは曖昧にしたと思われる点がいくつかありました。

まず、永野軍令部総長(海軍組織の長)が山本連合艦隊司令長官に開戦の準備を命令する「大海令第一号」を下達するシーンでは、これは天皇陛下のご指示による奉勅命令である、ことの重大さの説明がなされていない。

もちろん天皇陛下が直接考えられたことではなく軍令部が参謀総長(陸軍組織の長)の下にある参謀本部と調整して作文をして、軍令部総長が宮内省内大臣府をとおして上奏し、天皇陛下に決済を仰ぎ、天皇陛下のお言葉として裁可された、いまでは考えも及ばない逆らえない、権威ある命令、でありました。

江戸時代を背景とした時代劇では老中の「上意ッ!」、に対し、召しだされた大名の「ハッ、ハァー」と平伏する場面となって描かれます。この「上意」文(厳密には「下」と表書された「くだしぶみ」)も老中が単独または合議して徳川将軍の花押(署名)をいただいたもので将軍が自ら起草することはまずなかったでしょう。

二つ目に山本司令長官が日本の命運をかけておこなうミッドウェー作戦もその奉直命令である「大海令第十八号」で行なわれました。

それには「陸軍ト協力シ・・・要地ヲ攻略スベシ」とのみあり、山本の意図した空母対空母の殲滅戦は陛下のお言葉(ご意志)としては一切触れられていなかったことの説明がありません。その全文は、

大海令第十八號
 昭和十七年五月五日
  奉勅 軍令部総長 永野修身
 山本聯合艦隊司令長官ニ命令
一 聯合艦隊司令長官ハ陸軍ト協力シミッドウェー島及ビアリューシャン群島西部要地ヲ攻略スベシ
二 細項ニ関シテハ軍令部総長ヲシテ指示セシム

この「大海令第十八号」により、というよりその前に作成されている「細項」となる軍令部作戦課の作った作戦指導要領である「大海指第九十四号」では占領作戦支援の末尾の項のそのまた末尾に曖昧な敵情を説明する文章に続いて「反撃に来るであろう敵艦隊(注 敵空母ではない)を捕捉撃滅」とあるだけでした。

映画ではその対立を連合艦隊の旗艦での会議の場面で描いてはいましたが、敗北したミッドウェー作戦の戦闘指導の齟齬を、永野軍令部総長が直接に南雲第一航空艦隊先任司令官へ「上陸作戦を成功させ、艦隊を無事に帰還させること」と命令(?)するシーンを入れることで軍令部と連合艦隊の組織と艦隊派と条約派の人間の対立に仕立てています。

確かに永野と南雲は「艦隊派(軍縮条約反対)」、山本は「条約派」であったが本質はそこにはありません。

いずれにせよ山本は直接には南雲と作戦意図を調整したことはなかったようです。山本にとっては山本の考える「対空母シフトの徹底」を、ただ一つの奉勅命令である「航空兵力による上陸作戦支援」よりも優先させる命令は、上命下服に反する不忠の命令を発することでもあります。

したがい後年語られる「ミッドウェー攻略は米空母撃滅作戦であった」という幻想は命令として文書化されたものではありません。そして奉勅命令は「詳細は軍令部総長に指示させる」というお言葉で締めくくられています。

これではいくら山本の意をうけた参謀が出向いて航空艦隊の参謀を説得するようなことがあったとしても奉勅命令のもとでは効果はなかったと考えられます。

この時点で山本長官の考えたとされる作戦の組み立て、ひいては戦争終結の意図は「運がよければ」の領域に入っていきました。

当時の海軍士官の心理状況として陸軍との共同作戦である「陸地の攻略と占領」を第一とする奉勅命令にもとづく作戦指令を受ける立場となれば山本を含めて南雲以下の航空艦隊の幕僚も高級将校になればなるほど逃れられない呪縛めいた束縛で作戦を進める思考をしていたと考えるほうが妥当です。

つまりは、自縄自縛に陥りやすい組織構造で、しかも逆らうことを許されない組織の一員であった結果といえます。その組織の中にいる人間に通底する精神構造については、なにも山本にかぎったことではなかったと考えられます。

ミッドウェーの敗北については戦略、戦術、作戦指導について個人の毀誉褒貶を含めていろいろな見方がありますが、いずれの説もメビウスの輪のように堂々巡りとなって今もって定説はありません。すべてを突き詰めれば、(「当時の」と限定していいのかどうかは分かりませんが)日本人の国民性、もしくは潜在意識の働きと解釈できます。

映画の中では山本は戦闘指導の決断を南雲にまる投げしているようです。以上のように当時の背景を理解できれば(あるいは納得できれば)帝国海軍の軍人としての山本の判断の描写としては極めて妥当なのですが説明不足になっています。

このため山本が南雲を更迭しなかった理由や自殺行にも等しい前線視察の背景が曖昧になっています。

第三に私生活を描くならば山本には幾人かの愛人がいたこと、当時はそれが珍しいことではなかったことも描くべきであったことがあります。

映画では山本から直接妻に渡された恩賜の時計は実際には愛人(妾)に渡されていました。これがもし相手が普通の婦人との不倫であれば別の描き方もされたのでしょうが、いわゆる玄人であったことによるのでしょう。このあたりは半藤氏の「武士の情」かもしれません。

総じていえば山本五十六提督は「軍政家」としては優れていたが(映画では永野と南雲の結託として描かれるように)軍人、とくに戦時の最高司令官としての(個人の資質や周囲の環境を含めての)力(リーダーシップ)はなかったという半藤氏の評価が実像に近いのかなと思えます。

この点では氏は監修された映画のなかでは山本は何かにつけてものを食べる場面をいれて映画的に表現されたのかもしれません。

いっぽうの櫻井氏はこのあたりを悲劇の提督として叙事詩のヒーローと捉えられているのかも知れません。

さて、映画を見る発端となった櫻井氏の寄稿は山本に対する恋文めいて評論家の論客らしい鋭さがないのが残念でした。

これでは
左の田島陽子(過去も現在も否定専門、イギリス万歳、スエーデン万歳)、
右の櫻井よしこ(現在否定、過去肯定、全ては日本人の魂の在りよう)、
のお神酒徳利になりそうで「きょうの出来事」以来のファンは心配です。歴史に関しては批判をともなわなければ暦女も暦男もなかろうと思うのですが。

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コメント

そんな人物が、つい近年まで海上自衛隊の理想の兵士として、兵舎内に銅像が飾られていたのは意外でした。

驚 様、
ご訪問ありがとうございます。

念のため、本稿は提督山本五十六をおとしめるつもりではありません。
そろそろ、軍政上の偉人ではありましたが戦場の軍人としてはごく普通の当時の日本人であったことを評価する時代になったのではと考えています。

当時の時代の推移を現代の教育をうけ豊富な知識を手に入れた日本人として歴史の事象を振り返るのではなく当時の宗教観、生活観、組織の成り立ちをもとに考えてみる一助になればとおもいます。

ミッドウェーの海空戦についていえば、現在WEB上で幅広く年代を越えて悲憤慷慨される方々が指揮されれば勝てたかもしれません。

しかし、彼らがその時代に間に合って生まれていたら奉勅命令を無視できたか、なぜできたかの理由を考える機会になるはずです。

その上で今の日本人がこれからの時代をどう切り開くかが大切と思います。

本稿のベースのなっているのは下記のURL、キネマ航空のラウンジにあります。
http://kinema-airlines.movie.coocan.jp/lounge.html#michel

ぜひご訪問いただき各フライトにご搭乗下さい。

キネマ航空CEO 拝

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