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2013年10月20日 (日)

キネマ航空CEO 「風立ちぬ 」、零戦の「美しさ」と「怖さ」について考える (その 2)

今回から、零式艦上戦闘機の通説の「怖(おそろし)さ」について、考えます。(2013.10.17 初公開)

まずは例によって、寄せ集めの性能表の作成から・・・(2013.10.18 に各表の数字その他の補足と修正を行いました。詳細は表に付けた注記でご確認ください。より信頼性のあるデータを得た場合には再度の修正をおこなう場合もあります)

ここでは、零戦のひねり込みがどうの、空戦性能がどうの、といった、(あなたが知りたい)前線で扱う側の兵隊の視点で見た零戦ではなく、(海軍機だから)軍令部作戦課長となって作戦を立ててみる、ただし、展開としては過去と現在が混線したシミュレーション・ゲーム、というわけです。

後方にいる作戦課長には兵隊の視点など必要ありません。兵隊は、「ひねり込み」だろうが何だろうが、戦えばいいのです。あっ、いうまでもなく、演ずるのはかつて実在した作戦課長ではありません。

それにしても比較対照となる戦闘機が違うだろう、と思われるかもしれない。

でも、課長どの、国民の大半が信じている世界最強にまで神格化された「零戦」にグラマン F4Fカーチス P-40 ウォーフォーク を当てては失礼にあたりましょう。

でも、こんな性能に、あの「ゼロの怖さ」があるのか、ですって?

・・・あるのです。

公表されている性能諸元表の個々の数字は一見もっともらしいのですが、あまり問題にされない数字に少し加工を加えると、「へぇー」という数字が浮かんできます。

特に「三菱零式戦闘機 52 型 (A6M5)」は、戦闘機としてはとんでもない数字が現れます。では、もとになるその性能表から・・・(注: 赤字は追加データ  2013.10.18 )

型式 三菱
零式艦上戦闘機
グラマン
(艦戦)
ノースアメリカン
(陸戦)
21型 52型 F6F P-51D
燃料容量 (L) 胴体 145 60 946 246(標準)
322(最大)
翼内 380 510 non 696
落下増槽 330 320 568
1,707
284X2(標準)
409/416X2(紙製)
625/644X2(大型)
潤滑油(L) 63.5 52
航続距離(Km)
巡航時 標準 2,222 1,920 1,759 1,931
増槽 3,350 2,615 2,460 2,945
(標準X2)
3,412
(大型X2)
戦闘時 標準 全速30分
1,433
全速30分
1,550
630 805
増槽 全速30分
2,530
全速30分
2,560
(標準)
1,520
(標準X2)
1,416
(紙製X2)
1,609
巡航速度(Km/h) 296-333 337 322 580
最高速度(Km/h) 533
/4,550m
565
/6,000m
621
/7,100m
703
/7,600m
上昇力 -
6,000m/7.5分
-
6,000m/7分
3,000m/4.65分
6,100m/10.0分
17.9m/秒
/2,133m
兵装装弾数
口径/発射速度 7.7mm
(プロペラ同調)
700X2
500-700/分
700X2
500-700/分
12.7mm 400X6
800/分
400X2 270X4
800/分
20mm 60X2
500/分
100X2
500/分

零式戦闘機の数値は通説を形成する基本の数字を掲載していると思われるウィキペディア(野沢正 編著『日本航空機総集 第一巻 三菱篇』(出版協同社、1981年改訂新版)からの引用)と「世界の傑作機 No.55、No.56 文林堂」を用いた。他は英文のWikipediaなどからを日本の関連本と照合した寄せ集め。

例によって航空機の寸法はともかく、重量や性能は国どころか会社が異なれば同じ条件で測定されているとは限らない。

こうして寄せ集めでできたデータを、ああだ、こうだ、といっても、突き詰めれば作戦参謀がいつも正しい情報を手に入れるとはかぎらない。だいたいこうした数字は検証できないのであります。

さて、作戦を立てるには、一応のルールが必要になる。本作戦は制空戦闘に限定して兵装は機銃のみとする。落下タンク(増槽)は標準容量とする。邀撃側は増槽なしでの行動もできることにする。

立案の前に搭載する燃料の容量を整理して、重量を計算してみる。比重は 0.7 とする。

型式 三菱
零式艦上戦闘機
グラマン
(艦戦
ノースアメリカン
(陸戦)
21型 52型 F6F P-51D
 燃料容積(L) 胴体 145 60 946 246/322
翼内 380 510 non 698
機内搭載容量 525 570 946 944/1,020
落下増槽 330 320 568 568
総搭載容量 855 890 1,514 1,512/1,588
 燃料重量(Kg) 胴体 102 42 662 172/225
  比重 0.7 翼内 266 357 non 487
機内搭載重量 368 399 662 659/712
落下増槽 231 224 398 398
総搭載重量 599 623 1,060 1,057/1,100

ノースアメリカン P-51 の胴体搭載容量が二つあるのはタンク位置が重心から離れており空戦時には少ないほうの容量にしておく必要がある。したがい通常は差の 76 L (53kg 約 150Km 相当の飛行距離)を搭載しなかったようだ。

一回の出撃で零戦は 900L 弱、米軍機は 1,500L 強、ドラム缶にしてそれぞれ 4.5 本弱、 7.5 本が消費される。

税金は自動車用の(53.8円+消費税)/Lに対し航空機用は(26円+消費税)/Lである。現在、零戦を一機出撃させるといくら掛かるでしょうか・・・銀翼連ねた大編隊なら・・・えーと。その前に、「海上護衛戦 大井篤 1983 朝日ソノラマ」を読むと当時は前線にガソリンを供給する問題など、まともには考えられていなかったようだ。(閑話休題)

さて、上記のように出撃から帰投するまでに機体のそれぞれ重量は徐々に 600 Kg から 1 ton、(+ 増槽本体、機銃弾) も軽くなる。その結果、最高速度、巡航速度、上昇性能は向上し、それぞれの運用高度も変わってくる。

重量変化を織り込んだ諸性能の変化を推定する計算式はある。なかでも航続距離は公称値自体が短い時間に測定した実測値を使った計算で行われている。

要すれば、零戦には 1、米軍機には、謀略に使う軽負荷荷重の公称値*だとして 0.8 なり 0.7 の修正係数を掛けるなり、上昇性能では割る、なりをすればいいのでありますね。

* (ウィキペディアにおいても P-51 の巡航速度は、日本版で 443Km/h 、英語版で 580Km/h と異なっています。ここでは他のデータのそろった英語版を採用しています。前者が増槽付、後者が標準状態とも思えますが確たる資料は見つからなかった)

だいたい、いらち(癇性)の参謀は部下の計算結果の進言など受け付けず、自分でテキトーにやっちゃうのであります。

でも空気の読めないインスタント参謀の当CEO は以降の計算に、これを反映させないことにして進めます。では・・・

・ 巡航航続距離を搭載燃料で割るとリッターあたりの飛行距離(燃費)が得られる。
・ 巡航航続距離を巡航速度で割ることで巡航時間をえる。
・ 搭載燃料を巡航時間で割ると時間当たりの巡航時間燃費が得られる。

なお、戦闘機の重要な性能は航続距離ではなく戦闘行動半径です。これは基地(もしくは航空母艦)からの進出距離(航続距離÷ 2 )と戦闘空域での滞在時間となります。いうまでもなく航空母艦は戦闘行動半径上にいると仮定します。

さらに、

・ 戦闘航続距離をそれぞれの巡航燃費で割るとこの区間の必要燃料容量が得られる。

次ぎに、

・ 搭載燃料からこの必要燃料容量を引くと戦闘空域で使用可能な燃料容量が算出できる。
・ この許容燃料容量に戦域対空時間を掛けて巡航時間燃費で割ると戦闘時のエンジンの出力余裕が推定できる。

さて、計算結果は下表のように燃費は抵抗となる増槽を用いたほうが悪くなる。当然ながら巡航速度も異なるが巡航時間を求める計算では同じ数値の速度を用いた。

したがい、増槽は戦闘空域に到達する前に(敵に遭遇すると燃料を残したままで)切り離すので、往路復路の条件は異なるが計算では同じとした。参謀は細かいことに気を取られてはいけないのです。

以上を整理して下表にまとめると、だいたいの作戦立案が可能な情報になる。
(注: 赤字は追加データによる補足。青字は数値の訂正および誤記の修正、項目追加など 2103.10.18 )

型式 三菱
零式艦上戦闘機
グラマン
(艦戦)
ノースアメリカン
(陸戦)
21型 52型 F6F P-51D
 巡航燃費(Km/L) 標準 4.23 3.37 1.85 2.05/1.89
増槽 3.92 2.97 1.62 1.95/1.85
 巡航時間(h) 標準 7.51-6.67 5.70 5.46 3.33
増槽 11.32-10.06 7.76 7.64 5.08
 巡航時間燃費(L/h) 標準 70.0-85.5 100 173 283/306
増槽 75.5-85.0 115 198 298/313
 戦闘行動半径(Km) 標準 717 960 315 403
増槽 1,265 1,280 760 708
 増槽飛行距離(Km) 増槽 1,294 849 920 1,102(/+141)
 増槽距離/行動半径比 1.02 0.66 1.21 1.56/1.75
 戦闘域往復時間(h) 標準 4.84-4.30 4.60 1.96 1.52
増槽 8.54-7.60 7.60 4.72 2.44
 戦域滞空時間(h) 標準 0.5 0.5 n.a. n.a.
増槽 0.5 0.5 n.a. n.a.
 戦域往復燃料(L) 標準 339 460 341 393/426
増槽 647 871 938 730/765
 戦域滞空燃料(L) 標準 186 110 605 551/594
増槽 364 19 576 782/823
 戦域滞空燃料比 標準 5.31-4.35 2.20 6.99 3.89/3.88
増槽 8.56-8.51 0.33 5.82 5.24/5.26
   = 戦域滞空燃料(L)/ 戦域滞空時間(h)/巡航時間燃費(L/h)
      米軍機の戦域滞空時間も0.5時間として計算した

まず巡航燃費では、米軍機は零戦の2倍程度大食いである。公称エンジン出力が2000馬力級と1000馬力級の差とすれば妥当であろう。

さすがに日本機は燃費が良い、という問題ではなく燃料のロジステックス(兵站)の問題です。その前に燃料のオクタン価等々の質の問題がありますが、ここでは置いといて・・・

増槽は使い切る前に敵と遭遇すると切り離さねばならない。増槽(飛行)距離/(戦闘)行動半径比は増槽にいくらのマージンを持たせて部下に出撃を命令するかの目安になる。

1 以下の零戦は戦闘空域に到達する前に増槽燃料を使い切る。効率的といっていいのかどうか・・・

問題はこの戦域滞空(燃料)である。これは戦域で空戦を行う場合の時間当たり燃料と巡航時の時間当たり消費燃料の比。

零戦 52 型では標準状態でも、米軍機と比較すると少ない燃料で空戦を行うことになる。投棄できない機内燃料が軽くなることで空戦性能が米軍機より向上する、ともいえる。

しかし、増槽を付けた場合は 0.3 しかない。こうなると、まともな戦闘ができるかどうか・・・空戦時は巡航時の数倍の燃料消費があるのだが・・・

もちろん、これらの数字は戦闘行動半径を小さくすれば補えるのだが、結論として、

増槽を付けた零戦 52 型は、公称値の戦闘航続距離を使った長距離侵攻による制空戦闘などできなかった。零戦は長大な航続力で世界を圧倒しつづけた、とはとても言えなくなっている。

よく言えば、増槽なしでおこなう防空戦闘機の仕様であった。しかし防空戦闘機としての(上昇)性能や(統一機銃)兵装ではなかった。

零戦の開発目的は雷・爆撃機の護衛戦闘機であり長大な航続距離は、速度の遅い爆撃機の編隊に合わせて飛ぶためのジグザグ航跡を引き延ばした距離である。

想像しがちの零戦の編隊が直線距離で行う制空戦闘を行う仕様ではなかった、が・・・航続距離については、零戦 21 型で行われたガダルカナル航空戦などの情報が過大なイメージとなって 52 型にも付いてまわっているようだ。

零戦 52 型は、戦局が護衛戦闘機として使われる作戦など事実上できない時代への改造、であり 、この、52 型の時点で零戦の持つ航続距離の用途は限られてきた。といえる。

まず、以上の結論の元になった表に集めたデータが正しいのかどうかについては、数値には直接引用もしくは孫引きの過程での誤記が考えられる。

また、堀越技師が関与していたとは思えないが、もともとの数値自体を改ざんして公式仕様書とした可能性も残る。この増槽による航続距離を使った作戦では仮に未帰還機があっても仕様書の数値まで疑われることはなかったであろう。

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いずれにせよ、零戦の仕様書による戦闘行動半径を使えば米軍機をしのぎ、アウトレンジ戦法を使った作戦が可能のようであります。

でも長くなったので、もっと「怖ろしい」作戦の詳細は次回にゆずることにします。米軍機は戦闘空域に入っても増槽の燃料が大量に残っている、などの謎を含んで次回につづく・・・ことにして、今日はパーッとやりましょう。作戦課長どのっ!パーッと!

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