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2015年8月 1日 (土)

キネマ航空CEOの 「シングルとタンデムのあいだに」 の巻 その 3

さて、タイトルの元歌(1969 作詞 なかにし礼)では「夜と朝の間に ひとりの私・・・」で始まるのですが結びにリフレインされる「・・・お前も静かに眠れ」の忠告を聴いて眠ってたほうがよかったのかも・・・年齢のわりに睡眠不足がこたえる熱さですね。

ちなみにテール・ローターに傾斜をつける方式は、1974年に初飛行したシコルスキー H-60 ブラックホークなどの一連の軍用機からはじまりました。日本では三菱 SH-60J がこの流れにあります。現在では民生用の派生機種を含め大型機種に採用されています。

この方式はブラッシュ・アップも進み、その中の シコルスキー S-92 ヘリバス は大統領専用機となるマリーン・ワンの候補となっているようです。

シコルスキー以外の追従者は、アグスタウエストランド AW139ボーイング/シコルスキー RAH-66 コマンチ があります。後者はフェネストロンですが2004年に開発契約はキャンセルされました。

前者は770機(2014)販売、日本も40機前後導入されている。ただ、海外では2002年からの12年間に17件の事故が報告されている。民生用途として多いのか少ないのか不明ですが日本では発生していないことは明記しておかなければなりますまい。

その中のいくつかは地上での破損例もあり、以下に述べることが直接の原因とは思えませんがコンピュータに支援されたマン・マシン系に不整合な部分が残されているようにも思えます。

本題に戻り、我ながら、面倒なことに首を突っ込んじゃいました。前回を読んでないと(あるいは読んでても)分かりにくいかもしれない回です。結論は下のほうの二番目の破線の下からはじまります。

Ch53_hovering_balance

まず左上の上面図からシングル・ローター・ヘリコに必須のテール・ローターによるトルク反力の釣合計算から始めます。(厳密には立体座標の中でローター間の上下左右の位置関係もあるが今回は省略して限定された状態での釣り合いです)

前回の式(a)よりメイン・ローターのトルク反力を求めます。RM = 75PM/(2πnM) から
テール・ローターの軸の位置にかかる力は J = RM/C=75PM/(2πnM)/C となります。
テール・ローターは θ だけ傾斜しており J に釣り合う力はローターの推力 LT の水平分力LTHであり LT の垂直分力 LTV = LTH tanθはメイン・ローターを助ける浮揚力となります。

つぎに左下の左側面図と右の後面図から、
同様にテール・ローターにかかるトルク反力は RT = -75PT/(2πnT) となります。
回転方向が反時計回りのため力の方向は(-)とします。
このトルク反力を打ち消すためにメイン・ローターの中心では K = RT/C=-75PT/(2πnT)/Cの力が必要です。
PT = ηTFγPM としていましたから K = -75 ηTFγPM/(2πnT)/C となります。
さらにテール・ローターは傾いているので水平方向と垂直方向の分力(それぞれ KHKV )に分解します。

これらの LTH、LTV、KH、KV にメインローターの揚力 LMV とヘリコの自重 W を加えた五つの力の釣合を求めることになります。水平分力の KH はメイン・ローターを傾けて釣合わすのですが今回は数値計算を省略します。

----------------------(釣合計算)------------------------

テール・ローターがメイン・ローターのトルク反力を打ち消す力は、
LTH = 75 /(2πnM)・ηGB・(1-kE )PE /(1+γ)/C
テール・ローターを傾けることで寄与する浮揚力は、
LTV = 75/(2πnM)・ηGB ・(1-kE )PE /(1+γ)/C・tanθ

テール・ローターのトルク反力はメイン・ローターが打ち消します。ところが傾いているために、分力が生じます。(通常のヘリコでは KH ではSinθ= 0KV では cosθ= 1 となります)
水平方向に
KH = -75/(2πnT)・ηTF ・ηGB ・( 1 - kE )PE ・γ/(1+γ)/C・sinθ
垂直方向に
KV = -75/(2πnT)・ηTF ・ηGB ・(1 - kE )PE ・γ/(1+γ)/C・cosθ
KH
は機体を右にスリップさせますからメイン・ローターはサイクリック・ピッチ操作でローター・チップ・パスを左に傾けて打消しています。
KV はメインローターの浮揚力を減らす方向にはたらかせています。逆のほうが良いはずなのに、なぜか・・・は置いておいて。

ようやくテール・ローターを傾けた効果の検証に入ります。
・ 力の釣合から
LMV + KV + LTV = W
・ 重心まわりのモーメントの釣合から
LMV + KV = ( 1/e - 1)・LTV           e = E/C
KV の向きはメイン・ローターの浮揚力に対して(-)ですからシングル・ローター機のメイン・ローターはツイン・ローターやコ・アキシャル・ローターより働き者のようです。

なぜテール・ローターのトルク反力を機首を下げる方向に働かせるのか、固定翼機と同様の機首下げの感覚を付与するためか、エンジンの出力を少し大きくして安定化しておくのか、考えても理由はよく分かりません・・・(テール・ロータのトルク反力が上向きになる方向に回転している機体はロビンソン R-22 やミル Mi-8 などに見られるがほとんどが下向きのようだ・・・酣燈社 世界航空機年鑑の図面や写真等より)

さてふたつの式を LMV + KV でつないで整理すると W - LTV =  ( 1/e - 1)・LTV より      
E = (LTV/W)・C = 75/ (2πnM)・ηGB(1-kE)/(1+γ)・PE/W・tanθ

テール・ローターを傾けて得られる重心許容範囲の拡大効果は両ローターの軸間距離には関係なく荷重当り馬力に比例しエンジンの回転数に反比例するといえます。
θ= 90°にすればこの数式がタンデム・ローター機に応用できるかというと、できません。そもそも横方向の分力 LTV 自体がなくなります。この場合は RM = RT として釣り合っています。すなわち90°に近づくにつれてテール・ローターの直径も回転数もメイン・ローターに近づいていきます。

伝達効率は 2014年10月の記事のオスプレイで出てきた例で、 ηGB , ηTF0.96 程度と推定できます。

次に前後のローターへの動力分配比γ は前々回のチヌーク vs ヘイローの比較プレゼンより10-15%とあったが、実際のテール・ローターにかかっている馬力は傾斜しているため 1/cos20°= 1.064 ほど大きくなり、γ= 0.11-0.16 と修正すべきでしょう。今は中間のγ= 0.13 程度に仮定しておきましょう。

残っている数値は計算時の条件として前々回の諸元表から、 W は最大離陸重量、P は最大出力を使用します。

W = 33,300kgf
nM = 179/60 = 2.98/s
PE = 4,380 x 3 / 1.014 = 12,959 PS 

補機駆動馬力については強引な推定をせざるを得ません。入手できた中の小という分類に入るヘリコでは運転時の出力の5%程度としている。主な補機はギヤ・ボックスなどの効率による発熱の冷却であり動力に関係しています。

大型になると空調、軍用途になると発電機の追加や油圧ポンプの大型化などが考えられますが5%といえど648PSとなりますから十分賄えると考えられます。で、この値を採用しておきます。
kE = 0.05

以上で計算は可能です。

E = 1.36m

さて、ヘリコの釣合は、機体重量と馬力の関係は最大値の場合には釣り合っているとしていいのですが、重量が変わった場合に釣り合う馬力は理論値では重量の(3/2)乗に比例しています。 PPL=0/PE = (WPL=0/W)1.5 として計算すれば推測できます。

・・・で、有償重量(ペイロード)を 0 として見ましょう。先々回の諸元一覧表より

WPL=0 = 19,700kgf 
PPL=0 = (19,700/33,300)1.512,956 =5,895PS

E = 0.41m  

-------------------------(結論)--------------------------

一見、スーパースタリオンの重心許容範囲は最大負荷時にはチヌーク並にあり、軽負荷時はシングル・ローター並みに小さくなるということですが、全く無意味とは思いませんけれど(重荷重を搭載してホバーリングしている、高速で飛行している、つまり高出力をつかっておれば傾斜テール・ローターの効果は出ています)これが素晴らしい性能かというといささか疑問があります。

CH-53E のローターシステムを簡単にまとめると重心許容範囲の拡大というより掃海用浮舟を牽引するために仮想重心を後方に移すメカニズムだと言えます。

たとえば普通のシングル・ローター機でロープを機体の前につないでエンジンの出力を上げると前につんのめり、後ろにつなぐと機首を無理やり上げることになる。問題は重心の位置ではなく、どこにロープをつなぐかです。

つまり、メイン・ローター、テール・ローター、重力に加えて牽引ロープからの力を含めた四つの力(空気抵抗などは無視)の釣合の範囲を広げる目的でテール・ローターの推力を傾斜させ、巨大なスポンソンに搭載した大量の燃料は隔壁の間を移送されて基本的なトリムを取って使われると考えられる特殊な機体といえます。(巨大な燃料タンクは航続距離を伸ばすことに異論はありません)

安定して牽引するためにはメイン・ローターが回転している逆立ちした円錐の頂点から牽引する船の舳先に結んだ線上にかかる力が(ロープの重さを含め)釣り合えばよい。そのためには重心の余裕が後方にあることは都合がよい。実際にCH-53E には牽引ロープと機体をつなぐブーム(支柱)がメイン・ローター後方の天井に格納装備されています。

さてこのメカニズムに伴う副作用はいくつかあります。

まずヨー(首ふり)運動をする場合に左ならテール・ローターのピッチ(つまりは必要な馬力)を大きくし、右なら小さくすることで行います。したがい上向きの分力も増減し、右向きならお尻は上がり、左なら下がる副作用がついてまわります。

これにはテール・ローターのトルク反力(K)も関係しメイン・ローターのチップ・パス・プレーンの傾斜や動力の増減ひいてはエンジンの出力の調整も関係しています。テール・ローターの馬力は増えればメイン・ローターの馬力が減り、チップ・パス・プレーンが傾けば実質浮揚力も減ってきます。

以上は静的安定からの予測ですが力の変化は三軸三方向の振動現象をともない動的安定性という分野になります。

この振動現象を発散(拡大)させないで収斂(安定)させる動安定の確保はコンピュータによるエンジン出力の制御に加えてメイン・ローターのピッチにチップ・パス・プレーン(つまりスウォッシュ・プレート)の制御を含めてマン・マシン・システムの中で人間を排除して行われることになりました(自動化の本質です)

構造的にはテール・ローターにもサイクリック・ピッチ・コントロールを追加して上に向かう分力を制御すればより良い。サイクリック・ピッチそのものよりローターの傾きを調整(フラッピング)できればよい。

(ここではホバーリングについて話を進めていますが、ほとんどのヘリコのテール・ローターには前進飛行にメイン・ローターと同様に生じる上下の半分の速度差による不釣り合いを吸収する成り行きのフラッピングのメカニズムがあります)

前々前回に CH-53Eのリンクで示した図面ではテール・ローターはフラッピング動作をしているようです。こちらのリンクの テール・ローター部の写真 には取付け部にアクチュエータらしきものがあります。

ローターのジャイロ効果を見込んで上下の首ふりができる方向にあり、可能なのかもしれないが詳細はわかりません。

AW139 のテール・ローターの細部は こちら のずっと下のほう。

航続半径はさて置いて、スーパースタリオンが存在する理由は艦載機として運用できる舟艇を曳航または牽引できるトラクター・ヘリコがほしいの一言でしょう。
(この機能だけに限ればタンデムのほうが優れている)

CH-53E に採用された傾斜テール・ローターは軍用の技術的な産物と言えそうです。海軍には比較的甘い米議会はさらに大型化した CH-53K キングスタリオン の就役を承認するのでしょうかね。シコルスキーも正念場を迎えたようです。

ただ、4回前に示した比較図のようにシングル・ローターの実用ヘリコの大きさでは圧倒的にロシアに負けていますから国家威信をかけてヤンキー魂で踏ん張るのかも・・・そんな余裕あるのかな。

さて欧州では三発のシングル・ローターで開発年次が古いせいかテール・ローターを直立させている(常識的な)多用途機のアグスタ・ウェストランドAW 101 を同様の目的で改造しており、日本の海上自衛隊もスーパースタリオンの代替機としてこちらを採用をしました。(初飛行1987、就役2000 ローター径(枚数)18.6(5)/4.0(4)m 最大離陸/有効積載重量15,600/5,443kgf )

なんでもかでも、アメリカの最新最高の機種で揃えたい日本の自衛隊としては英断でしたね。

併せて、日本にいる民生用途のアグスタウエストランド AW139 の運用には細心の整備と操縦技術で無事故の就役を全うされることを祈念いたします。

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