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2016年11月 1日 (火)

キネマ航空CEO 映画館に『ハドソン川の奇跡』を観にゆく

2016.11.3 以降に校正と加筆(青字)を行いました。よろしければ再読を。

イーストウッド監督が脚本の下敷きにしたと考えられる1979.4.4 に TWA841便で発生したインシデントで最初は称賛されながらNSTBに追及されたクルーがありました。疑惑は残されたまま嫌疑不十分とされましたが後日判明した事例によっても再調査は行われず名誉回復もなされませんでした。 こちら をご参照ください。(2016.11.9に追記)

原題は“Sully”だったが邦題は航空機ファンを当て込んでいるようなので実話の背景詳細は省略。

サリー」は、バード・ストライクによるUSエアウェイズ1549便の不時着水事故時(2000/1/15)の機長のファミリー・ネーム「サレンバーガー」を短縮した愛称。

本人の気持ちとは裏腹に「ハドソン川の奇跡」の英雄と祭り上げられた機長がNTSB(国家運輸安全委員会)より事故原因追求の過程で機長としての判断や行動を検証され追求されることになります。

主題は、追求される側の「サリー」がハドソン川への着水を選んだ自分の判断は本当に正しかったのかどうか苛まれることに焦点を当てて進みます。

ここではNTSBは典型的な悪役(ヒール)を割り当てられています。アメリカ映画には必須の憎たらしければ憎たらしいほど正義を際立たせる、役者としては美味しい役回りですけどね。

まあ「サリー」や観客の視点からはそうでしょうが、航空機に限らず事故のヒューマン・ファクターの要素は必ず検証されなければなりません。この点では日本は直接運航に携わる個人に甘すぎるようです。

では以下、映画としての感想のみ。

冒頭、実写によるニューヨーク・ラガーディア空港からの離陸に続いて、キャビンに視点が変わりバード・ストライクの瞬間(飛蚊症のようですが実際にこんなものかもしれない)からいかにもCG感いっぱいでエンジン二基の出力を喪失したエアバス A320-214 が黒煙を引きながらニューヨークの市街地上空を滑空する場面から始まります。

しかし、もう少し陰影のあるというか被写体との間にある空気を感じられる映像にならないかと、なんともチープな印象に感覚的に落ち込んでしまうイントロです。

いっぽう作劇術としてはクライマックスとなる事故の公聴会へ収束していくのですが、これが実話か、と疑いたくなる構成です。

公聴会でのNTSBの論旨はエンジンが作動していたかどうかのミッシング・リングとなるNo.2 エンジンが回収される前の予測に基づき、幾つかの空港への緊急着陸の可能性を示唆するシミュレーションの結果と着水によって生じる乗客への危機誘導という二者択一の選択が必要な1分21秒間にコクピット・クルーに生じたコンフリクトを追求したものでした。(『クルーの間』のコンフリクトではないのが救いです)

NTSBの聴聞の要旨は、緊急時のマニュアルの手順を飛び越えてAPU を作動させた機長の処置の前まではNo.2 エンジンによって油圧と電力を供給できていたため操舵が可能だったと判断した。このためNo.2 に僅かに残っていた推力で空港に緊急着陸ができた可能性が存在したという推測が成立することの検証であった)

追求するNTSB の委員に対して本当に「サリー」自身の弁舌で自分の判断の正当性を論証してボードとなる委員に認めさせていたのか、またその直後その席で追求していた委員の口からNo.2 エンジンの回収と確認結果が公表されるなどNTSB 側は聴聞時に事実を隠した論理の展開を映画のような手口で行っていたのかどうか、たった一回の公聴会の中ですべてが一連の謎解きにショーアップされて行なわれたのか、など実話をうたう脚本としては破たんに近い劇的構成が目立ちます。

まあ、アメリカは国家や組織が事実を隠して押しつける個人の責任というスケープ・ゴートを必要としているという国なのかもしれませんが・・・監督がこの映画でそれを見せたかった、のかな?・・・までは想像はできますがこの描き方ではよくわかりません。(丹念にアメリカの批評を読まなければなりませんが当CEO はパスします)

現実の事故の結果ではサレンバーガー機長がマニュアルの手順を踏まずにAPU を起動するなどの一連の判断と処置は正しかったのですが、それにしても、映画としては「サリー」を演じた名優の名のあるトム・ハンクスによって成立する個人対多数の裁判劇としてのアメリカの正義に焦点を当てたC・イーストウッドらしい愛国映画のよう(な実話のようなフィクションの娯楽映画)に見えてしまいました。

(機長が遵守しなければならないマニュアルは高高度での全出力の喪失を想定しており、停止したエンジンの再始動が優先されAPU の始動は一番最後に書かれていた。NTSB がエンジンの一つは動いていた可能性と機長の判断にこだわる理由の一つ。ただ事故は離陸直後の極低高度で起こったことは言うまでもありません)

トム・ハンクスと言えば当キネマ航空 900便で上映中の『プライベート・ソルジャー』の中で比較している『プライベート・ライアン』にも出演していますがスピルバーグ監督も同じようなアメリカを象徴する男を演じさせています。(昔のようなハンサムなスターではないところが新しいといえますかね)

これまでの名優で描かれた対立を主軸にした映画では、(ハンサムとは言いづらいが)密室での個人対多数の関係を丹念に描いたヘンリー・フォンダの『十二人の怒れる男たち』(1957、初出は1954のTVドラマですがこちらは未見)。

個人対集団の対決とそれを取り巻く群衆を冷徹に(個人を支持していた群衆も次第に消極的になり背を向けていくなかで)孤立した個人を描いた、かつてはハンサムだった初老のゲーリー・クーパーとグレース・ケリーの『真昼の決闘』(1952)。

・・・などに比べると、本作『ハドソン川の奇跡』こと“Sully” (2016) は、個人vs国家 の対決でありながら、そこに描かれた大衆は、いとも軽く(能天気に)個人を支持して喜んでいるという英雄待望のフィクションとしての政治映画ともいえます。

このあたりにイーストウッド監督のシニカルな面が少しは出ているのでしょうか。そういえばストーリー上では不要なTVレポーターの正義派ぶった発言のシーンも挿入していました。

もちろんエンド・ロールの前に「サリー」本人の実写映像を流してアメリカ映画らしくハッピーに終わってはいるのですが、映画を透かしてみるアメリカの本当の現実はどうなんでしょうね。

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実話を売り物にした(特に戦争)映画やCGものがあまり好きではない当CEO の運営する航空会社で航空事故の映画を上映するのもいかがなものかとは思いますが、

キネマ航空 009便では、『フライト236』、『フライト』、前者は実話ベース、後者は実在の事故の原因を換骨奪胎したフィクションを扱っています。

また、アーカイブスの中では『ジェット274』があります。こちらは事故機の機長の妻の話で、パン・アメリカン機の爆破テロがモデルのようですがフィクションです。

お時間がありましたらご搭乗、ご来訪ください。

当CEO は、こちらのほうが時代とともに変わる映画としての正統のように思えます。

なお、サレンバーガー機長は、実話とかフィクションとかにかかわらず前二者の映画のようなパーソナリティではない、真摯な人柄であることは、ゴースト・ライターの作かもしれませんが自伝とされる、

機長、究極の決断 「ハドソン川」の奇跡 “Highest Duty”』(2011)C・B・サレンバーガー著、十亀 洋訳 青山社文庫刊

にてご確認ください。どちらに優劣をつけるのでは決してない、映像と活字の情報を受容する訓練と実践です。

なお、この本ではAPU の起動は記載されていません。

NTSB の報告書もあるはずですが未見。機会があれば補足します。本当は読んでから批評すべき、と思うのですが。

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