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2019年12月24日 (火)

「マックとミー、レガシー・ビジネス始めるってよ」の巻 (3 の 3.2)「翼はクリーンなだけじゃダメなのか!」

ジェットライナーの先陣を受け持った デ・ハビランド DH.106 コメット は就航直後の離着陸時にいくつかの事故を起こしている。
デハビランドには DH.88 コメット もある。 扱いにくい機体のようだけど、キネマ航空 009 便 の「グレート・エアレース」に赤と黒の 2 機登場します。 DH.98 モスキート の叔母さんに当るのかな 。

例によって公開校正と校閲中です
お気づきの点のご連絡をお待ちしております
キネマ航空CEO 拝
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副題に「翼はクリーンなだけじゃダメなのか!」とぶち上げてみても、当CEO にはまず翼型の復習が必要です。 まず翼は、以下の用語であらわされ・・・

Airfoil-w-aoa05

翼型翼上面翼下面に内接する円の直径(翼厚)とその中心の軌跡である矢高線(キャンバー・ライン)の関係で決まる。 その横軸基準座標となるのが翼弦線翼弦長である。 矢高線翼弦長に直角な翼厚の断面寸法の中央を結んだ線で意義する場合もある。 微妙な違いだが後者のほうがデジタル思考には馴染みやすい。

縦軸座標で示される翼厚矢高の位置は翼弦長を 100% とした前縁からのパーセンテージで表される。 例えば、層流翼型最大翼厚位置は通常翼型の 25–30% に対して 40-50% の位置にある・・・など。 また、矢高翼厚の縦軸方向の寸法も翼弦長に対するパーセンテージで表される。 なお、最大翼厚位置最大矢高位置は必ずしも一致しない。

パーセンテージで表記されると最大矢高最大翼厚の位置と翼厚が分れば大体の翼型性能は推定できる。 N.A.C.A.あるいはNASA翼型の命名はこの方式で分類されている・・・ただし超々音速翼型については各自で調べてください。

翼弦長は、前縁を構成する中心のある円弧上の一点と、点である後縁との間の長さ、である(らしい)。 しかし、前縁半径の中心と翼弦線の関係が判然としない。 

翼弦長の定義を、点である「後縁」と「後縁」 を中心とした円弧と「前縁」となる円弧の接点を結んだ直線、(要するに翼型の最大長さ)だとすると矢高線の一部は翼弦線と重なり参考書の図面とは異なることになる。 おそらく翼弦線前縁半径の中心位置とには矢高線前縁へ滑らかに結ぶオフセットがあるのだろうがこんなことに拘ずらわっていても仕方がないのだろうなー。

とにもかくにも、矢高線が完全に翼弦線に重なる(直線になる)と翼面は上下対称となり対称翼型と呼ばれる。 特徴は迎角(以下 α )が 0° では揚力係数(以下 CL )も 0 となり迎角が増えると CL は直線的に増える。 α 軸に対するこの勾配を揚力勾配と呼び、失速角 αst と呼ぶある角度で頭打ちとなり、最大揚力係数 CL max を示し、さらに α を増すと CL は低下していく。

ちなみに迎角 α は翼の進行方向と翼弦線のなす角度であって機体との関係を示すものではありません。 図中の(取付角)は下方のフラップの図と関連します。

4412この関係は左の性能図のように、矢高のある翼型にも引き継がれる。 翼型性能は、矢高が大きくても揚力勾配は変わらないが、大きいほど α = 0° の CL が大きくなり CL max も大きくなる。同時に CL max 時の迎角 αst は小さくなる。
)例示した翼型 NSCA 4414 はコメットに使用された規格ではありません。

なお、翼厚比(= 最大翼厚/翼弦長)の増加でも同様の傾向があるがここでは踏み込まない。

その一方で、引き換えに抵抗係数 CD は増加する。 CL = 0 の迎角(零揚力角と呼ぶ。グラフでは -3.8°)あたりで最低値を示す逆放物線状を示すが失速角 αst 付近で直線状に急激な増加を示しています。

しかしこの、性能曲線図の縦軸(無次元数)で示す CDCL の数値は一桁違っており直感的な認識は難しいので縦軸のスケールを統一して書き直したのが下図であります。(今回の論旨には関係のない h/c につきましては当キネマエアラインズの運営する ミュージアム にてご参照ください)

H_per_c

グラフで突出しているのは、揚力 L [N] と抗力 D [N] の比 である 揚抗比 L/D Ratio [-]であります。 したがい、
   Lift to Drag Ratio = L / DCL / CD  (グラフでは CL/CDi
つまり、翼は 1 の抗力に逆らう力で最大で 21 倍強の揚力を出せることを表しています。 逆らう力は、エンジンの推力と引力による機体の重量、すなわち重力であります。

このグラフでは最大揚抗比( L/D max )を得る迎角(以下、AOA : Angle Of Attack )は 2 ° 弱であります。 ついでに L/D max のときの CL は 0.1 程度です。
一方で CL max の場合は、AOA は 22° 強、 CL は 1.65 です。この角度と係数の差を覚えておいてください ね!

航空機の運航でもっとも飛行時間の割合が大きい水平巡行時の迎角は胴体、エンジン、尾翼などを引っくるめた機体の抗力が最小となる姿勢の基準線に対して最大揚抗比を得る角度( AOA ) が理論上では最適の主翼の取付角となります。

・・・あくまで理論上で、でありますので、工学上の理屈で違う場合もあります。 それは後ほどですが次回となります。

なお、実際の AOA は操縦による機体の人為的姿勢に加えて、自然風による上昇や下降の気流などの外乱でも変化します。

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さて、翼を持つ飛行機の宿命は、地上の停止状態から加速し浮揚し決められた高度を通過(ここまでが離陸行程)し、つづいて、上昇-巡航-下降 と通常の飛行と呼べる航程を経て、決められた降下角度に乗って減速し決められた高度を通過(ここから着陸行程)しながら、滑走路上で浮揚、接地、制動をして停止状態、に戻る、その中で「浮揚する」という二回の空中を低速で漂う時間から逃げられないことにあります。

飛行機が「飛行機」に変身するのは、まさに離陸時は「浮揚」した瞬間、着陸時は接地した瞬間の速度が境い目であります。

その時の機速は CL max を使い失速速度 Vst として揚力の式を変形して求めることができる。
Vst = { (2/ρg)・(W/S)/( CL max ) }1/2
     ρ 空気密度 [Kg / m3] g は重力加速度 [m / s2 ] W/S は翼面荷重 [Kgf/m2 ]
ちなみに、g は重さにおける質量(物理)と重量(工学)の単位変換常数(9.8)。
      ρg とすると物理単位[Kg / m3]から工学単位 [Kgf / m3] へ、
      W/g では工学単位[Kgf]から物理単位 [kg] へ、の変換となる。

空気密度 ρ は気温・湿度・気圧、ひいては高度で変化する。
重力加速度 g は場所により厳密には異なるが常数として扱う。
翼面荷重W/S は離陸荷重時と着陸荷重時では燃料が燃焼し排出されて後者が軽くなる。

つまり、人間が手を出せる「翼を持つ飛行機を速やかに飛行機たらしめる」方法の一つは最大揚力係数 CL max をいかに大きくするかであります。 もう一つは失速速度 Vst を越えるまで速やかに加速する強力なエンジンの性能ですが、これは後ほど・・・ 

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翼型の形状で最大揚力係数 CL max を大きくするには矢高(キャンバー)を大きくすれば良いことは先に述べた。 それをメカニズムで実現する一番単純な方法として矢高線の途中で機械的に折り曲げるシンプル・フラップがある。 

Airfoil-w-aoa5-flap45

揚力の基準となる迎角はフラップ下げ翼弦線となるが、機体に対する見做し取付角が大きく取れるので機体が水平でも翼にとっては大きな迎角となり、ひいては大きな揚力係数を得ることができる。

すなわち、より低速で浮揚することができる。 厳密にいえば、翼弦長が短くなり翼面積 S が小さくなる。 この対策は第二世代以降のクリーンじゃない翼となって対策が行われる。
Flap-effect_b

左のグラフは、フラップの下げ角による揚力係数の変化を模式的に表している。

揚力に付随する抵抗係数も示すべきだが具体的に比較表記できるような情報はなかった。

とはいえ、揚力が増えれば抵抗も増えることは想像できる。 揚抗比は小さくなりピークは左によることになる。

とにかく CL max が大きくなれば、浮揚速度となる Vst を遅くできる。 増えた CD はエンジンの離昇出力で賄うことになる。 

単純なフラップを採用していた コメット DH.106 の離陸時の事故の遠因はエンジンの出力不足にもあった。 したがい、抵抗係数を少しでも小さくするためフラップの下げ角を小さくすることになる。

いっぽう、着陸時には下げ角を最大にした大きな抵抗係数と揚力係数を利用してより低い Vst を享受でき、しかも機体を滑走路に平行にして浮揚できることになる。

しかし、災いもあるようで地面効果と相まってなかなか接地できないという人為的な事故もあったようだ。 

これも第二世代ではスポイラーというあまりクリーンじゃないメカニズムが採用される。 当CEO はスポイラーよりお尻が左右に開くエアブレーキのほうが好きなんだけどねー。 アメリカで乗った フォッカー フェローシップ は下降時には脚を下さずに開いていたようだったけど。

後縁側のフラップで揚力勾配を変えずに CL max を増やし零揚力角 α0 をマイナス側に移動させ失速角 αst を小さくする手段を手に入れた。

そして、 α0 も 変えずに CL max を増やすには、ということでは(前縁)スラットがあった。

Slat-effect-rev1

スラットは、前縁を少し前下方にずらして、翼の下面で塞き止められた高圧を上翼面側に逃がす流路を開ける機構であります。 

高圧側から低圧側に狭い通路を通って流れるので高速で流れる翼上面の流速より早く、粘性で翼面に引きずられて相対的に速度の遅い上翼面の境界層に運動エネルギーを補充することで剥離を抑えて、失速角 αst を増して CL max を増加させる。

右のグラフのように、基本となった翼型の α0 も揚力勾配を変えずに CL max を増加させるのだが、図にはないけれど副作用として CD も増加する。

スラット自体は第二次大戦前には知られていた。 有名なところでは STOL 性能が要求される前線の偵察もしくは指揮連絡用途の フィーゼラー Fi 156 シュトルヒ(初飛行 1936)がある・・・と、書くと 日本国際航空工業 三式指揮連絡機 キ ‐ 76(同 1941)を挙げとかないと納まらない人もいるようだ。 

いずれも主脚の可動ストロークの長いテール・ドラッガーで主翼のほぼ全長にわたる固定式の前縁スラットを備えていた。

前縁スラットの機能を活かすには翼の迎角を大きくすることになる。したがい、機体の姿勢も上向きになり滑走路の視認性など不都合が生じる。

一般的には、前縁スラットは後縁フラップと併用してフラップ下げ時の見做し取付角を小さくすることで機体の姿勢の上向き角を小さく CL max をさらに増す手法ともいえます。

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以上、第一世代のジェットライナーが採用していた高揚力装置の概要を調べてみた。 

これらから、低速時の離着陸で頻発した デハビランド DH.106 コメット のアクシデントやインシデントなど問題を読み解いてみる予定だけど長くなったので一度インターミッション(休憩)に入らせていただきます。 

再開までの間は、当CEO オフィスが運航する キネマ・エアラインズ でお楽しみください。 

なお、前縁スラットの機能を後縁にあるフラップに応用するとシンプル・フラップに対してスロッテッド・フラップとなり性能は向上します。 コメットの後縁フラップはどちらだったんだろう。調べることは多いなー。

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翼型性能の補足 (重要な閑話休題)

現実の揚力勾配はアスペクト比、翼の平面形状、胴体との干渉などで傾斜が緩やかになり、揚抗比や CL max は風洞実験で作成された性能図より低下します。

当CEO は、「飛行機を知るには平面図、特に下面図を見るのが正しい見方で側面図で『カッコいい』は邪道だ」、言われた記憶があります。 邪道こそ「マニア」のような気もするのですが。

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