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2020年9月28日 (月)

ミッドウェーの「運命の5分間」の後先き・・・スマート、ステディ & サイレント・ネイビィ について考える(序章)

’20年9月公開の米中出資映画「ミッドウェイ "Midway" (2019)」に触発されて起筆
なお当CEOはCGによる航空映画は好きではないので未見、TV放映待ち

(次回のその1の1)と合わせて校正と校閲を実施します。

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英国王立海軍(Royal Navy)を範とする大日本帝国海軍はやたらと英語の隠語や標語が多い。海軍将校として海軍兵学校で教育されるシーマンシップの基本は SmartSteadySilent3S 精神であった・・・

ようだが、ロイヤル・ネイビーは海賊から発展したシステムである。だからとは言わぬが、言葉にも表裏がある。
Smart【気が利く⇔目端が利く(こずるい)】、Steady【堅実な⇔一貫している(融通が利かない)】、Silent 【口数が少ない⇔言及をしない(説明責任を果たさない)】・・・

と、英語ではたった一つの言葉で表される人間の行動や気質、すなわち人格の表裏が日本語では全く別の言葉と概念で表現される。

日本語の語彙は豊かと言えるのだが、その一方では、欧米(あるいは中国を含む)言語の客観性の概念を鍛える訓練もしくは知育においてはあまり適さない言語体系ともいえる。

この間(はざま)でミッドウェイ航空戦は行われた。

当キネマ航空CEOは、 キネマ・エアラインズ V.I.P.ラウンジの機内誌「B-25 ミッチェル 二人の軍人の間に存在する爆撃機」でミッドウェー航空戦の顛末を含めて大日本帝国海軍のモットーである「3S 精神による海軍」の盲点を考察している。

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さて今回は、この記事で省略した最大の謎である利根四号偵察機の発信文、発信位置、発信時間と南雲機動部隊の海図台上に現れた客観性の齟齬について数回にわたり考えてゆく。

まず今回の参考資料は『記録ミッドウェー海戦 澤地久枝 1986 文芸春秋』のから『空母赤城の「機動部隊戦闘詳報」「二、経過概要(抜粋)」の全文』より、利根4号機が敵艦船を報告してきた電文に始まる機動部隊との交信を抽出する。補足として『ミッドウェー 淵田美津雄 奥宮正武 』から引用した。

なお、時系列表示の補助のため「 〇四 〇六 〇八 一〇・・・二二」の遇数時台と「〇〇」時台に背景色を付与しておいた。したがい、背景色がないのは奇数時台。

----------------------1942年6月5日(東京時間)----------------------

〇四二八 γ(航空機の記号の代用)4(識別記号)|トネ(所属艦名) 司令長官(四角旗記号で表示)|KdB(機動部隊の略号) (無線 通信手段を記号他で表示)  タナ三、敵ラシキモノ一〇隻見ユ「ミッドウェー」ヨリノ方位一〇度二四〇浬針路一五〇度速力二〇以上

(通し読み) (東京時間)04:28 (発)利根4号機より(宛)機動部隊司令長官へ無電 (本文)発信番号3番、敵と思われる10隻を発見。「ミッドウェー島」からの方位10度、距離240海里の地点を進路150度速力20ノットで航行中。
(末尾の「以上」は「~を超える(速度)」か「(以上で)通信終り」なのか、はっきりしないが他の信文には出てこないので多分通常では省略される後者と思われる)

信文のうち方位と距離で示す敵位置に留意。戦後になって米軍の航跡記録と突き合せた現実の敵位置は一本北側の索敵線を飛ぶ筑摩五号機が担当する範囲と時間であった。今回の第一の謎である。

これに対する機動部隊の対応は以下のように続く。

〇四四七 司令長官|KdB γ4|トネ 無 タナ一、艦種確メ接触セヨ
〇四五八 γ4|トネ 司令長官|KdB 無 タナ五、〇四五五敵進路八〇度速度二〇節(〇四五八)
〇五〇〇 司令長官|KdB γ4|トネ 無 艦種知ラセ(〇五〇〇)
〇五〇九 γ4|トネ 司令長官|KdB 無 敵ノ兵力ハCx5 dx5ナリ (注)C 巡洋艦 d 駆逐艦
〇五一一 γ4|トネ 司令長官|KdB 無 敵ノ兵力ハ巡洋艦五隻駆逐艦五隻ナリ(〇五〇九)
〇五二〇 γ4|トネ 司令長官|KdB 無 敵ハ其ノ後方ニ空母ラシキモノ一隻伴フ
〇五三〇 γ4|トネ 司令長官|KdB 無 タナ八、更ニ敵巡洋艦ラシキモノ二隻見ユ「ミッドウェイ」ヨリノ方位八度二五〇浬敵針一五〇度速度二〇節(〇五三〇)
〇五三四 γ4|トネ 司令長官|KdB 無 タナ九、我今ヨリ皈途ニ就ク 
   〇五四五 司令官|8S 筑摩艦長 (司令長官|KdB) 無線 タナ二、零式水偵ヲ発進 γ4|トネ ノ発見セル敵ニ接触セシメヨ (注)8Sは第八戦隊
〇五四五 γ4|トネ 赤城 無 更ニ敵巡洋艦ラシキモノ二隻見ユ「ミッドウェー」ヨリノ方位八度二五〇浬敵針一五〇度敵速二〇節
〇五四八 γ4|トネ 赤城 無 我今ヨリ皈途ニ就ク
〇五五〇 γ4|トネ 司令長官|KdB 無 更ニ敵巡洋艦ラシキモノ二隻見ユ「ミッドウェー」ヨリノ方位八度二二〇浬敵針一五〇度速力二〇節
〇五五〇 γ4|トネ 司令長官|KdB 無 我今ヨリ皈途ニ就ク(〇五四〇)
〇五五四 司令長官 γ4|トネ 無 方位測定用電波輻射セヨ
〇五五五 司令官|8S γ4|トネ 無 皈投待テ 
〇五五五 γ4|トネ 〇六〇一 指|KdB 無線 令達報告敵攻撃機十機貴方ニ向フ(〇五五五) 
〇五五五 司令官|8S γ4|トネ 無 タナ二、筑摩γ四来ル迄接触セヨ長波ヲ輻射セヨ
   〇五五五 筑摩艦長 (〇六二〇)司令官|8S 光 〇六三〇発進ノ予定
   〇五五五 筑摩艦長 〇六五三 司令官|8S 光 タナ五、五号機発艦(〇六三五)
   〇六〇〇 司令官|8S 筑摩 光 零式水偵発進 γ4|トネ ノ発見セル敵ニ接触セシメヨ
〇六〇五 司令官|8S γ4|トネ 無 筑摩γ 来ル迄接触セヨ長波輻射セヨ
〇六〇五 γ4|トネ  司令長官|KdB - 右攻撃機一〇見ユ貴方ニ向フ(〇五五五) (注)通信手段の - は記載なし、利根の中継か 
〇六〇七 利根 γ4|トネ - 筑摩 γ 来ル迄接触セヨ長波輻射セヨ(〇五五五)
   〇六二四 司令長官|1AF 司令長官|GF - (〇五〇〇)敵航空母艦一巡洋艦五駆逐艦五「ミッドウェー」ノ一〇度二四〇浬ニ認メ此レニ向フ(〇六〇〇) 
〇六二九・五 γ4|トネ 利根 無 我燃料不足接触ヲ止メ皈投ス
   〇六三〇 司令長官|KdB 司令長官|GF - 〇五〇〇敵航空母艦一巡洋艦五駆逐艦五「ミッドウェー」ノ一〇度二四〇浬ニ認メ此レニ向フ
〇六三〇 γ4|トネ (〇六四〇)司令官|8S 無線 タナ一〇 我燃料不足接触ヲ止メ皈途ニ就ク
〇六三五 司令官|8S γ4|トネ 無 〇七〇〇マデ待テ
〇六三七 γ4|トネ 司令官|8S 無 燃料不足接触ヲ止メ皈投ス(〇六三七)
〇六三八 筑摩 司令官|8S 光 (〇六三八 γ 発艦)- 筑摩五号機敵艦隊ニ接触ノタメ射出発艦(利根γ4ト交代)
〇六三八 γ4|トネ トネ 無 我レ出来ズ
〇六三九 司令官|8S γ4|トネ - 「〇七〇〇マデ待テ」(〇六三〇)
〇六四一 γ4|トネ トネ 無 我レ出来ズ
〇六五八 司令官|8S γ|8S 無 〇六三〇 我レ出発点ヨリノ方位一七三度八六浬針路北ヨリ速力二四節
〇七〇〇 蒼龍偵察機 〇七一五 司令長官|KdB タナ一、敵ヲ見ズ我レ「ミッドウェー」島ヨリノ方位二〇度距離二九〇浬(〇七〇〇)
〇七〇〇 司令長官|1AF  (〇八〇〇)司令長官|GF,2F,6F 司令官|2Sd(その他) タナ三三七五、〇三三〇AF空襲 〇四一五以後敵陸上機多数来襲我ニ被害ナシ 〇四二八敵空母一隻巡洋艦七駆逐艦五地点トシリ一二四二ニ発見針路南西速力二〇節 我今ヨリ之ヲ撃滅シタル後AFヲ反復攻撃セントス 〇七〇〇當隊ノ位置地点 針路三〇度速力二四節 (注)トシリ一二四二 は 暗号表の位置コード。

以上、後年、文学的にと言うよりも大衆娯楽小説的な表現の「運命の五分間」の直前までの一連の航空偵察情報関連の記載文を抽出して読み進んだ。

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次に利根四号機が敵に接触する前から交わされていた機動部隊内(主に発光信号)と連合艦隊司令長官宛の主力艦隊との無線交信記録の経緯を振り返っておく。

なお、前日から続くミッドウェー島からの偵察機の接触動向、艦隊護衛の対潜哨戒機の射出と回収、上空待機戦闘機の発着艦、攻撃隊隊の離帰艦などに関連する記録については必要のない限り省略した。また、陸地攻撃隊の爆撃前後に始まるミッドウェー基地航空隊の攻撃による空対空、空対海の交戦についても必要部のみを抽出した。

また、既述の利根四号機と機動部隊とのやり取りを二文字下げで(時刻)敵機発見から艦船攻撃を決断するまでの信文を挿入した。

〇一三〇 「ミッドウェー」攻撃隊発進
〇二二〇 司令長官|KdB KdB 信 敵情ニ変化ナケレバ第二次攻撃ハ第四編制(指揮官加賀飛行隊長)ヲ以テ本日実施ノ予定 
(注)第一次攻撃隊発進から50分後の信文に付けられた「敵情ニ変化ナケレバ」の意図と背景は明確でない
変化のない敵情とは何か、第一の謎である
以下の艦隊内の信号による通信は部分的に短縮記号や暗号が含まれていても文章として発信される
〇三三六 - - 無 攻撃隊→攻撃隊突撃準備隊形制レ
(注)この信文の通りに打電したのではない。「・・-・・」を繰り返す、いわゆる「ト連送」
ちなみに英文のアルファベットにはない信号で È に相当する。
なお、発信元も宛先も指定はないが(敵の傍受も承知したうえで)作戦に関連する部隊や東京の大本営海軍部にも向けている

〇三四五 - - 無  飛龍攻撃隊→司令長官|KdB 我攻撃終了皈途ニツク
(注)これも短縮信号が使われるのだが寡聞のため知らない
〇三四九 γ4|筑〔γ5〕司令長官|KdB - タナ一、付近ノ天候不良ノタメ我引換ス地点基点(ミッドウェーヨリノ方位一一度)三五〇浬(〇三三五)
(注)信文は決められた順序で決められた短縮記号を並べて送信され、受信者が平文に直している。
前の(カッコ内)は地点基点を示す略号を最終受信者が具体的に書き起こし、後ろの(〇三三五)は転送者が原文の発信時刻を付与、先頭の 〇三四九 は(おそらく筑摩からの)転送時刻を示している

〇三五八 γ|飛 KdB 無 我被弾ノタメ中隊毎ニ分離行動ス
(注)発信者の「飛」は所属空母の飛龍かその飛行隊長かは不明だが同じ人物を指している
〇四〇〇 γ|飛 KdB 無 タナ一 第二次攻撃ノ要アリ 
(注)攻撃隊隊長機の無線機は被弾で使用不能のため黒板筆記で僚機からへ機動部隊へ送信、何が不十分なのか、の具体的な報告ではない・・・次回の参考文献 # 7 による
2分前の〇三五八も代行通信と思われる

〇四〇五  赤城一五〇度二五〇〇〇米高角〇・五度敵機九ヲ認ム 第五戦速 右ノγ二取舵ニ向首 利根左三五度高角一五度一八〇〇敵重爆十ヲ認ム・・・敵接近(00:00) 
  0407 ミッドウェー基地航空隊攻撃を開始・・・(00:02) 以下攻撃の間隔を示す
(注)英数字の時刻は米国側の戦闘記録による攻撃開始時刻を東京時間に換算後
〇四〇七 γ|加 司令長官|KdB 無 我「サンド」島ヲ爆撃ス効果甚大(〇三四〇)
(注)加賀機より03:40時のサンド島攻撃効果。27分の遅れは他艦からの転送かも知れない
〇四〇七 赤城右高角砲射撃開始
  0410 ミッドウェー基地航空隊の雷撃機隊および雷撃機隊の各個攻撃を開始(第一派) ・・・(00:05)
〇四一二
 赤城敵 γ ノ魚雷発射ヲ認ム(応戦記録略)敵 γ ノ機銃掃射ヲ受ケ(損害一部略)両舷送信用空中線切断左舷使用不能
〇四一五 司令長官|1AF - - 第二次攻撃隊本日実施 待機攻撃機爆装ニ換ヘ 
(注) - - は空白を示し、赤城を除き発光信号により第一航空艦隊の4空母に宛てた命令伝達、
第二次攻撃が予告された〇二二〇から1時間55分後に艦船攻撃の魚雷から陸地攻撃の爆装として命令された
攻撃機は魚雷攻撃が主任務だが水平爆撃も行う、艦上爆撃機は(緩降下を含む)急降下爆撃を実施する 
魚雷には目標艦船の種類に合わせた走行深度の調整、爆弾には重量による分類のほかにも攻撃対象に合わせた構造の違いや起爆遅延信管の調整などの作業がある
   (〇四二八 γ4|トネ 司令長官|KdB 無 タナ三、敵ラシキモノ一〇隻見ユ「ミッドウェー」ヨリノ方位一〇度二四〇浬針路一五〇度速力二〇以上
(注) 利根四号機より敵艦船発見の第一報、ただし報告位置は北側を飛ぶ筑摩五号機の第五索敵線に掛かる位置であった
第二の謎であり最大の謎でもある

〇四四五 司令長官|KdB KdB - 敵艦隊攻撃準備攻撃機雷装其の儘 
(注)爆装命令から30分後に「雷装はそのまま」にと命令を変更、爆装に変換済なら再雷装を含んだ命令となる
利根四号機の発信から17分後に命令となっている。機動部隊内の通信手順については後述

〇四四七 司令長官|KdB γ4|トネ 無 タナ一、艦種確メ接触セヨ
  0455 敵基地航空隊の爆撃機隊および雷撃機隊攻撃開始(第二波) ・・・(00:50)
〇四五五 蒼龍に爆弾投下(弾数九-一〇)命中セズ
   (〇四五八 γ4|トネ 司令長官|KdB 無 タナ五、〇四五五敵進路八〇度速度二〇節(〇四五八))
〇五〇〇 司令長官|KdB γ4|トネ 無 艦種知ラセ(〇五〇〇)
〇五〇六 筑摩敵 γ 左二五度艦隊上空ニ来襲 (艦載機-本艦ノ認メシ最初ノ艦載機ナリ) 主砲高角砲機銃砲撃始ム 
(注)基地派遣の海兵隊と海軍の所属機。機動部隊司令部は空母機とは判断していない
   (〇五〇九 γ4|トネ 司令長官|KdB 無 敵ノ兵力ハCx5 dx5ナリ)
  0510 ミッドウェー基地航空隊の艦上爆撃機隊攻撃開始 (第三派) ・・・(01:05)  
   (〇五一一 γ4|トネ 司令長官|KdB 無 敵ノ兵力ハ巡洋艦五隻駆逐艦五隻ナリ(〇五〇九)) 
  0514 基地航空隊の水平爆撃機隊攻撃開始(第三派) ・・・(01:09)
   (〇五二〇 γ4|トネ 司令長官|KdB 無 敵ハ其ノ後方ニ空母ラシキモノ一隻伴フ  
   (注) 利根四号機より敵空母発見の報告。KdB司令部は「ラシキ」に拘る
この信文も決められた順序と「ラシキ」を含めて決められた短縮記号を並べて送信され、解読している。

〇五三〇 司令長官|KdB KdB - 艦爆隊二次攻撃準備二五〇瓩爆弾揚弾 
(注)250Kg爆弾にも種類があり陸用から艦船用に変更を命令、攻撃機の雷装へ変更より45分、空母発見より10分遅れている
機動部隊の使う二次攻撃は山本連合艦隊司令長官の意図した作戦の本質とは離れた単に攻撃編隊の発艦の順番を指しているようだ
   (〇五三〇 γ4|トネ 司令長官|KdB 無 タナ八、更ニ敵巡洋艦ラシキモノ二隻見ユ「ミッドウェイ」ヨリノ方位八度二五〇浬敵針一五〇度速度二〇節(〇五三〇))
   (〇五三〇) 二式艦偵接触のため発進・・・戦史叢書「ミッドウェー海戦」より補足
   (注)二航戦の蒼龍に試験運用として二機を乗せていた。二航戦司令官の発令か?
   二式艦偵は液冷エンジンを搭載した胴体内に爆弾を装着する後の艦上爆撃機彗星

〇五三七 赤城第三戦速 収容開始 
(注)直後にミッドウェー基地攻撃隊の収容中止と再開があるが敵の攻撃は一旦終息
〇五三九 筑摩左九〇度敵機二機遠ザカル ・・・(01:34)
(注)三派に分かれたミッドウェーからの攻撃に対する対空戦闘と回避行動が終息
〇五四五 司令官|8S 筑摩艦長 (司令長官|KdB) 無線 タナ二、零式水偵ヲ発進 γ4|トネ ノ発見セル敵ニ接触セシメヨ
   (〇五四五 γ4|トネ 赤城 無 更ニ敵巡洋艦ラシキモノ二隻見ユ「ミッドウェー」ヨリノ方位八度二五〇浬敵針一五〇度敵速二〇節)
   (〇五四八 γ4|トネ 赤城 無 我今ヨリ皈途ニ就ク)
   (〇五五〇 γ4|トネ 司令長官|KdB 無 更ニ敵巡洋艦ラシキモノ二隻見ユ「ミッドウェー」ヨリノ方位八度二二〇浬敵針一五〇度速力二〇節)
   (〇五五〇 γ4|トネ 司令長官|KdB 無 我今ヨリ皈途ニ就ク(〇五四〇))
〇五五四 司令長官 γ4|トネ 無 方位測定用電波輻射セヨ
〇五五五 司令官|8S γ4|トネ 無 皈投待テ 
   (〇五五五 γ4|トネ 〇六〇一 指|KdB 無 令達報告敵攻撃機十機貴方ニ向フ(〇五五五))
〇五五五 司令官|8S γ4|トネ 無 タナ二、筑摩 γ 四 来ル迄接触セヨ長波ヲ輻射セヨ
〇五五五 司令長官|KdB (〇六一三)KdB 光 タナ一〇、収容終ラバ一旦北ニ向ヘ敵機動部隊ヲ捕捉撃滅セントス
〇五五五 司令長官|KdB 〇六三〇 司令長官|GF(2F) 無 タナ三三六 午前五時敵空母一巡洋艦五駆逐艦五ヲAF十度二四〇浬ニ認メコレニ向フ 
(注)同時刻先発信の実施予定時刻(〇六一三)を 〇六三〇 と訂正し敵情を補足して主力部隊へ報告 
〇五五九 fb全機収容 (注) fbは艦上爆撃機
〇六〇五 司令長官|KdB 各 光 揚〔容〕収 終レバ一旦キタニ向フ敵機動部隊ヲ補足殲滅セントス
〇六二四 司令長官|1AF 司令長官|GF - (〇五〇〇)敵航空母艦一巡洋艦五駆逐艦五「ミッドウェー」ノ一〇度二四〇浬ニ認メ此レニ向フ(〇六〇〇) 
(注)〇六〇〇 にあった司令長官|KdBの 発信を 〇六二四 に司令長官|1AF が 代行して転送か。なお、敵情は〇五五五のタナ三三六と同文である
〇六一八 攻撃隊容収終了 
(注)収容には41分掛っているが邀撃戦闘機は上空待機している
〇六一八 右五二度高角二度三十五粁敵十六機右ヘ進行スルヲ認ム(筑摩) ・・・敵接近(00:00)
(注)敵空母艦載機接近、陸上からの攻撃終了より約40分後
  0625 ホーネット雷撃隊15機攻撃開始 ・・・(00:07)
〇六三〇 司令長官|KdB 司令長官|GF - 〇五〇〇敵航空母艦一巡洋艦五駆逐艦五「ミッドウェー」ノ一〇度二四〇浬ニ認メ此レニ向フ
(注)〇六二四 と同文。発信者役職を1AFからKdBに変更か。どちらも同じ南雲中将だけどKdBのほうが役職が高位
〇六三〇 司令長官|KdB (〇九一五)KdB 光 晝戦ヲ以テ敵ヲ殲滅セントス
〇六三八 筑摩 司令官|8S 光 (〇六三八 γ 発艦) 筑摩五号機敵艦隊ニ接触ノタメ射出発艦(利根 γ4 ト交代) 
(注)本来なら詳報には γ5|筑、γ4|トネ と記述されるはずだがこの辺りから記号記述に統一性がなくなる
  0645 エンタープライズ雷撃隊14機攻撃開始 ・・・(00:27)
   (〇七〇〇 蒼龍偵察機 〇七一五 司令長官|KdB - タナ一、敵ヲ見ズ我レ「ミッドウェー」島ヨリノ方位二〇度距離二九〇浬(〇七〇〇))
〇七〇〇 司令長官|1AF  (〇八〇〇)司令長官|GF 2F 6F 司令官|2Sd(その他) - タナ三三七五、〇三三〇AF空襲 〇四一五以後敵陸上機多数来襲我ニ被害ナシ 〇四二八 敵空母一隻巡洋艦七駆逐艦五地点トシリ一二四二ニ発見針路南西速力二〇節 我今ヨリ之ヲ撃滅シタル後AFヲ反復攻撃セントス(以下略) 
(注)敵艦載機攻撃下で連合艦隊司令長官に宛た想定通り対空母攻撃の進行とミッドウェー再攻撃予定の報告である
空母発見時刻を〇五二〇から敵艦隊発見時の〇四二八 に52分も早めている、というよりこちらが正しく〇四四七 や〇五〇〇の「艦種シラセ」の催促は挿入なのかもしれない

敵位置は暗号化されているがこの時点でも利根4号機の報告のままと思われる。
利根4号機の報告位置に飛んだ蒼龍偵察機から〇七〇〇発信の敵不在報告は〇七一五に司令部に届いているようで未対応

戦闘詳報には連合艦隊司令部に宛てたミッドウェー島への第二次攻撃準備の通信記載はないようだ
連合艦隊司令部では陸地攻撃隊長から〇四〇〇 発信の「第二次攻撃ノ要アリ」や〇七〇〇の蒼龍偵察機から既定位置に敵不在の報告は傍受していたはずである

しかし攻撃目標変更命令は機動部隊内では光や手旗などの視覚信号で行われていた
連合艦隊司令部が機動部隊の行動を承知していたのかは第三の謎である

また第二の謎の敵位置については、前日に機動部隊内に通達された索敵計画や発進時刻は無線ではなく発光信号で行われたことを詳報に明記している
索敵計画は機動部隊司令部の専権事項だったのか、別途暗号で連合艦隊司令部に送信したのか、既定の作戦計画だったのか、などは不明であり、この時点で連合艦隊司令部が敵位置について機動部隊司令部と情報を共有していたかどうかは定かではない

索敵には無線傍受というインテリジェンスの側面があり、本土や進出先に広く展開した敵信班、大和をはじめとする戦艦群など多数の受信施設の傍受情報を分析する設備と人員と体制が必要である
これも第三の謎に含まれる謎である

以下は公式の戦闘詳報に記録はなく基礎文献である「ミッドウェー」からの一部引用による補足挿入である。

  0715 ヨークタウン雷撃隊13機戦闘機隊6機攻撃開始 ・・・(01:07)
〇七二〇 「午前七時二十分、赤城司令部から、/「第二次攻撃隊、準備出来次第発艦せよ」/との信号命令が下達された。/(中略)/あと五分で攻撃隊全機の発進は了るのである/噫、運命のこの五分間!」 
()「 」内の / は改行を示す。なお、再度の艦船攻撃の命令から2時間35分経過していた
ここまでの空母機の攻撃は全て雷撃機であり上空直掩隊は低空に引き下ろされていた

  0722 エンタープライズ急降下爆撃隊33機攻撃開始 ・・・(01:14)

彼我が同じ時計で戦ったかどうかは知らぬが残されていた正味の運命は2分間だった。

-------------- ロング インターミッション 長い休憩 --------------

漢字漢数字アルファベット混じりの文語体の記録は読みにくいが独特のリズムがある。この際慣れていただくしかない。

戦闘詳報では司令長官、司令官、艦長などは四角、三角、吹流しなどの旗記号、無線は電波を輻射するアンテナの模式記号で表されるがPCのフォントにはないのでそのまま「無」で表示、航空機は翼を広げた形を γ(ガンマ)で代用する。また発光信号は「光」に、旗旈信号、手旗信号などは「信」に短縮して使われている。

部隊記号や地点地名にはアルファベットも使用される。例えば、AFはミッドウェーのことだが1AFとなると第一航空艦隊となる。以下に主要なアルファベット記号を上げて置く。

GF 連合艦隊。本来は大日本帝国海軍艦艇の配属組織体系に示される編制であるが、ここでは後方にいた主力部隊旗艦の大和に座乘する連合艦隊司令長官を指すと考えて良い。
KdB 機動部隊。 1AF8S、第三戦隊第二小隊(戦艦2 複葉二座偵察兼観測機各3機運用)、第十戦隊(軽巡1、3駆逐隊からなる駆逐艦11隻)で編制。
1AF 第一航空艦隊。機動部隊司令官が座乘している第一航空戦隊の空母赤城と加賀、第二航空戦隊の空母飛龍、蒼龍からなる。
8S 第八戦隊。重巡洋艦 利根、筑摩。主砲4基を前部に配置し後部に最大6機の三座水上偵察機の運用機能を集中した航空巡洋艦。
2F 第二艦隊。別動するミッドウェイ攻略部隊本体。戦艦2、重巡4、軽巡1、駆逐艦8、空母1
6F 第六艦隊。ミッドウェイ戦域には存在していないようだ。
2Sd 第二水雷戦隊。 ミッドウェイ攻略(上陸)部隊護衛隊。軽巡1、駆逐艦10隻と輸送船15、他16隻からなる船団

読み解きで最もややこしいのは発信時間を含めて出てくる時間の解釈である。例えば発信時より早い時間が信文の中にある場合は「何時現在」の内容を送信していると考えられる。

さらに発信時刻と受信時刻が同時と言うことはまずない。

暗号で送信される文章はモールス符号を使い短縮記号と既定の用語や語順で発信されており、暗号文作成と送信、聞き取り筆記と解読時間が必要である。詳報の中でも同じ暗号からと思われる「ミッドウェイ」、「ミッドウェー」、「基点」あるいは「速度」、「速力」、「敵速」、など統一されていない場合もある。

因みにアルファベットとイロハはトン(短点)ツー(長点)と無音(文字間隔)の構成要素は同じであるが、英文に比べると日本語は基本文字数が多いため5点で構成する文字があり同じ意味の文章を平文で発信する場合イロハのほうが長く(一定時間の文字数は少なく)なる場合が多い。

また発信元(水上機)と受信先(司令部)の所属する組織が異なる場合には発信元の組織(巡洋艦)が受信と解読をして受信先(司令部)に転送する時間が必要となる。

具体的には、ミッドウェー空襲と誘い出された対空母の撃滅を任務とする機動部隊司令部の通信機能は空母赤城の通信施設を共用する。

空母の長距離通信アンテナは戦艦や巡洋艦の艦橋より低い飛行甲板の横に立てられており、戦闘行動中には攻撃隊の発艦と収容時以外にも防空戦闘機を担当する艦の飛行甲板は給弾・給油のために開けて置くので通信アンテナは横に倒していた。

加えて赤城は基地航空隊雷撃機の機銃掃射を受けて早い時期に両舷の送信用空中線を切断されており特に左舷は使用不能になっていた。

多くの場合、中継は水上偵察機を運用する戦艦や巡洋艦が担当し隊内通信は発光信号や手旗信号など目視通信で行われる。

交戦時の避退行動で隊列が分散すると光信号などの通信に支障をきたし転送迄の空費時間がかかるなど、やむを得ない場合は微弱電波の隊内無線(受信機の性能次第で敵に傍受されることもある)が使われた。後者の場合に使われるのは解読文か暗号文の転送なのかは分らない。

こうした中継電文の場合、通信記録の受信先欄あるいは信文に記載される時間が発信時間より遅い時間の場合や発信時間や発信元が異なる同一信文が同一宛先に発信をされている場合などがある。

次に宛先欄や信文の中に発信時間より先(未来)の時刻の記載がある場合は信文内容を実行開始する予定時刻もしくは計画時刻と考えられる。

さらにこうした文書の分析には大きな壁がある。例えば、〇七〇〇の(発)第一航空戦隊司令長官から(宛)(〇八〇〇 )連合艦隊司令長官の本文は「タナ三三七五、・・・」から始まっている。すなわち南雲機動部隊司令長官の司令部から3,375通が連合艦隊司令長官宛に発信されていることになるがが、この詳報に全信文を記載しているわけではない。

その一方、1時間5分前の〇五五五に同じ発信元から連合艦隊司令長官に宛てた信文では「タナ三三六 ・・・」が使われている。上三桁目がー番増えて四桁めに「五」を加えた何らかの理由があるのかもしれないがいずれにしても多くの情報が上伸されてはいるようだ。

機動部隊が呉軍港を出撃してからの通し番号とも考えられるが、機動部隊の進撃航程では無線封鎖を行っており、ほとんどはミッドウェイ島への攻撃隊が発艦後に行った交信として良いと考えられる。

また、後方で主力部隊を勤める旗艦大和は無線アンテナの高さは当然だが、航空機を含む機動部隊間の無線交信に加えて解読はできないまでも敵の交信を傍受できる設備と人員を備えていた。

したがい、作戦に参加している主力部隊は機動部隊内の発光や手旗による信号を除いた無線交信は傍受していたはずであるが連合艦隊旗艦から機動部隊への指示は健在する空母飛龍一隻となった後の敵空母とミッドウェー島に対する二正面総力戦を指示する作戦命令と飛龍被弾後の事実上の作戦中止命令であった。

なお、抽出した機動部隊の時間帯はミッドウェー島からの陸上機に始まる攻撃の間断をついて防空戦闘機の離発艦と第一次(陸地)攻撃隊の容収を終えているが交戦状態は続いている。

機動部隊から連合艦隊(主力部隊)に宛てた〇七〇〇信文内の〇四二八 には内容にある敵空母はまだ出現していないなど、矛盾点はいくつかはある。

いずれにせよこの戦闘詳報は赤城の艦上で作成された原本ではなく(退艦時紛失)、後から関係者によってまとめられたようだ。

戦闘詳報から赤城を中心に時系列で抽出した後段に当CEOが挟んだ青字の (注) の中の三つの疑問は普通に読めば普通に浮かぶはずの疑問であり、参考とした「記録ミッドウェー海戦 澤地久枝」の第一部「彼らかく生き かく戦えり」でもすでに提起されている疑問でもあります。

そこからは詳報原本編纂者さらに澤地を含む引用者による矛盾(もしくは意図)が入っている可能性も考えられる。次回からは数多あるノンフィクションや聞書きのなかで信頼のできそうな文献に頼ることになる。

公式記録の戦闘詳報からGF司令部やKdB司令部の長官や幕僚の心理状態や結果としての戦闘指導を決めつけるのは難しいが、歴史上最初の海洋航空戦となった珊瑚海海戦の結果からも明確になったように海洋航空戦は平面上の決戦などではなくどちらに転げ落ちるか分からない稜線上で突つき合う戦闘である。

その敗戦を偵察機にミスがなければ勝てたはずの日本だった、と考えることほど空しいことはない。

次回から今にも連なるかもしれない文言上に現れた 3S を読み解いて行く。

映画でも描かれる(はずの)「B-25 ミッチェル 二人の軍人の間に存在する爆撃機」を読んでおいてくださるほど理解しやすくなるはず・・・デッス!

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