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カテゴリー「「風立ちぬ」」の4件の記事

2013年12月23日 (月)

キネマ航空CEO 「風立ちぬ 」、零戦の「美しさ」と「怖さ」について考える (その 4)

「風立ちぬ」の最終回、例によって「後書き」による「前書き」です。
キネマ航空CEO 「風立ちぬ 」、零戦の「美しさ」と「怖さ」について考える (その 3)、と同時公開。

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「風立ちぬ」は、宮崎駿監督の劇場公開アニメーションの中では異質である。本作を除くほとんどの作品は愛、勇気、成長といった普遍性の中で描かれて国際性を持っており、その中で安心して親も子も作品の世界に親しんでいた。しかし、・・・

「風立ちぬ」はそうではない。安倍首相も頼みとするクール・ジャパンを越えて、日本人に向けた日本の現代史への誘(いざな)いである。

少なくともこの作品の中からその結論が得られるものではない。他人の批評を参考にしてもいいが自分で考えなければならない。

その意味では、監督は大きな転換を行った。もはや劇場公開をする長編アニメーションで自らの考えることを構成することはできないと思い定めたように感じる。

できるとしても、これからも日本を襲うであろう天災や、あるかも知れない戦争を、菜穂子と二郎の恋愛と周囲の人たちを通して夫婦とか家族のありようとして描くしかなかった。

これからは、宮崎駿氏としての画筆、文筆で語られる言葉を通じて、最終作として公表した「風立ちぬ」を観ることになる。

作品自体は、

左からは「兵器を開発した設計者の反省、その兵器で踏みにじられた隣国への謝罪がない」とたたかれ、おまけに「煙草を喫うなと」とねじ込まれ(あっ!これは左ではないね・・・単なる蒙昧)。

右からは、「零戦の活躍シーンがない(・・・これは必ずしも右ではないか?)」、から、当CEOから見ると単なる決めつけで「左翼」などとたたかれる。右から見れば、なにをどう見たって左は左、鏡を見ると右は左なんだけど・・・

「風立ちぬ」の公開後、零戦に関する宮崎駿監督の発言は、モノである「零戦」を神格化するな。

神格化される根拠は勝者のアメリカが弱い敵と戦って勝ったのでは、さまにならないから「テリブル(恐ろしかった)」といっているのを、一部の日本人が真に受けて喧伝したに過ぎない。

歴史や社会の中では一過性に過ぎない*モノを日本人の(かつての、から、将来への)情緒的精神性に結び付けることの恐ろしさを考えてほしい、という趣旨のようである。

* うまく説明できないが「モノ」にはその価値を発揮する期間があり、それを過ぎれば(工学)技術的な分析に裏付けられた総括とともに博物館に収まるかマニアの妄想の中で生きるかしかない。

当キネマ航空CEOもそう思う。

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「モノ」である零戦がそれほど神格化されるには使用された期間を通じて常に相手より優れていたことで証明されなければならない。

零戦の「美しさ」と「怖さ」について考える (その 1)、では、

「風立ちぬ」の中で、堀越技師の生きがいである飛行機の設計の目的は「美しい飛行機」、となんども繰り返される。

この美しさは、宮崎駿の過去の作品から推測すると、使用した人間を含めた運用上の美しさとも取れるが、そうでもなさそうである。

まず、(その 1)では、確かに美しい零戦の機体とライバルの機体をフォルムとして考察して、零戦は開発時点で形状自体がすでに工学的には時代遅れになっていたことで得られた美しさである、ことをまとめた。

零戦の「美しさ」と「怖さ」について考える (その 2)

ここでは、一般に強調される(数値化されない)空戦性能ではなくて、諸元表にある燃料槽の仕様と航続性能から戦闘機としての戦域滞空戦闘能力を計算してみた。

結果は、

零戦 21 型は仕様通りの長距離護衛戦闘機としての性能を持っており十分に優れていたことは間違いなく、相手がその設計仕様に合わせた戦闘をしてくれている間は優勢を保てた。

しかし、戦局に合わせた改造仕様の 52 型は、速度などの注目される表面上の性能は向上しているが、滞空戦闘性能は著しく劣化している。

52 型は防空戦闘機にも護衛戦闘機にも向かない状態になっていた。(もしくは、出回っている資料の性能自体に転記時の誤記、あるいは元になった仕様書作成時から改ざんあるいは秘匿されていた可能性がある)

零戦の「美しさ」と「怖さ」について考える (その 3)

ここでは、兵装と日本が参戦しなかった第一次大戦とスペイン内乱での航空戦が第二次大戦の航空機に及ぼした影響から零戦の搭乗員の全仕事を考えてみた。

少なくとも零戦 21 型に対抗して開発されたアメリカの戦闘機システムを相手に戦うには 21 型も 52 型も搭乗員の精神力しかなかった。

この時点では「ゼロ」は恐ろしいものではなくなっていたと考えられる。

その悲劇的な精神力を、兵器としても不完全となった「モノ」である「零戦」と同一化、神聖化して語り継いでいいのかどうか。

日本人には情緒的な「滅びの精神美学」という厄介なものもある・・・

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1941年生まれは戦争が、ものごころに残る最後の世代である。宮崎駿監督の戦争観、歴史観が現れたアニメーション作品には初期の「風の谷のナウシカ(1984)」がある。

しかし「風立ちぬ」と並べるテキストとしては同名のコミック版1~7(1982.2~1994.3)に注目したほうがよい。

アニメーション作品とは大幅に異なっている。こちらには(当CEOも理解し解読しているとは言えない)国家観、(選ばれた人の、ではあるが)生死観が複雑に入り組んで語られている。

奇しくも、その最後のコマの言葉は「風立ちぬ(2013.9)」 と同じ、

生きねば
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・

であった。

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「風立ちぬ」に触発された「零式艦上戦闘機」全4回 / 完

注・・・一応、以下の使い分けをした
怖(こわ;おそろし)さ : 言葉を発した本人が感じる場合
恐(こわ;おそろし)さ : 周囲の人も感じる場合

キネマ航空CEO 「風立ちぬ 」、零戦の「美しさ」と「怖さ」について考える (その 3)

零戦の性能は、ブラック企業に勤める人への励まし、か・・・???

では、「怖ろしさ」の続きです。設定は前回と同じく、あなたは作戦課長であり搭乗員ではありません。基礎データ は前回と同じです。

ただし以下の本文は一人の人物の思考の中で、過去と現在が入り乱れています。上げ足はとらないでね!

搭乗員への、言わずもがなの出撃命令は、「敵機を撃墜すること」。そして、その実体は敵機の搭乗員を殺害することです。生きて還れば別の機体で、また出撃してきますからね。

さて、30 分の戦域滞空時間内で相手を殺害できる機会は以下の表となる。

型式 三菱
零式艦上戦闘機
グラマン
(艦戦)
ノースアメリカン
(陸戦)
21型 52型 F6F P-51D
装弾数x搭載数 口径
発射速度
発射弾数/分
7.7mm
(プロペラ同調)
700X2
500-700/分
700X2
500-700/分
12.7mm
(外翼)
400X6
800/分
400X2+270X4
800/分
20mm
(外翼)
60X2
500/分
100X2
500/分
正味連射時間
7.7mm 1'24''-1' 1'24''-1'
12.7mm 30" 20.25"+9.75"
20mm 7.2" 12"
総射撃時間 1'31.2''-1'7.2'' 1'24''-1' 30" 30"

零戦は 1 分 31 秒から 1 分 7 秒、米軍機では 30 秒、に過ぎない。とはいっても連続して打ちつづければ、機銃が壊れてしまう・・・(というより、そんなに長く照準を合わせ続けられない。敵もサルもの、逃げるもの)

米軍機は 1 秒に 80 発、零戦 52 型では 7.7 mmで 23 発/秒、20 mmで 17 発/秒なのでせいぜい 1 秒から 2 秒の連射を繰り返すことなる。

30 分の戦域滞空時間がノルマならば、どちらの側も、 28、9 分は、敵機を追いかけまくるか、敵機から逃げまくっている時間となる。

全弾打ちつくしたら、 30 分の戦域滞空ノルマはほっといて、さっさと帰途につくほうが賢明といえる・・・つまり、機体とパイロットの残存率は向上する。

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それにしても、零戦は米軍機の 3 倍の時間、敵の後尾についていないと全弾射撃ができない。大雑把には、航空機に搭載する機銃は口径が大きいほど破壊力は大きいが発射速度が遅くなる。当然、同じ弾帯の収納スペースなら携行弾数も少なくなる。

また、口径の大きい弾丸ほど空気抵抗も大きく、加えて初速が遅く、射撃時の機体の姿勢とは関係なく重力によって下方に弾道が曲がりやすい。

したがい、口径が異なる機銃を同時に発射する場合は地上で水平にして合わせた照準器の照準点に双方の機銃の火線を集中させるのは難しい。このため零戦を駆るベテランは機銃を使い分けていた。

つまり零戦は照準を合わせる理屈上のチャンスは増えるが発射速度は遅く、弾丸の集中力は低かった。

まず、日本が国産化の手本にした英国製 7.7 mm口径航空機用機銃の発射速度は 1000 発/分程度はあるはずだが、重要な部品となるバネの材料を国産化できなかった。

そこで、発射速度を、製造できる材質で作ったバネの熱と衝撃の繰り返しに耐えられる限界に合わせたため、と、プロペラの間を縫って射撃する同調装置のため、に遅くなった。

これに対し米軍機は機銃を中口径に統一して搭載数を増やし、プロペラ回転圏外の外翼に装備していた。もちろん火線は照準器を通して弾道が直線と呼べる位置に交差集中させていた。

空戦を、日本がこだわった格闘戦(ドッグファイト)ではなく一撃離脱に変える模索は、日本が介入しなかったスペイン内乱(外国の介入があり事実上の戦争)の中でドイツによって実験されていました。重戦闘機(重戦)による一撃離脱の戦闘方法です。

重戦とは飛行機の性能と操縦士の技に依存している時間をかけたドッグファイトではなく、戦闘機の喪失を減らす「逃げる足」を優先させる速度と、それに見合う運動性をバランスさせた設計です。

逃げる足 : 後で述べる第一次世界大戦の教訓の応用・・・航空戦の帰趨は数で決するが、そのためには生き残らねばならない・・・坂井三郎氏の戦訓は零戦の性能においてても退避経路を考えた攻撃する。格闘戦は行わない、ことであった)

その究極にサッチ・ウィーブというという機動が編み出されました。、2 機編隊の先頭機が零戦の前に出て追尾を受けるが後続の 1 機が追尾する零戦の背後にまわり射撃する。

このときの2 機の機動の軌跡を織物の縦糸に見立てている。さしずめ横糸が零戦。米海軍のジョン・サッチ少佐の考案であり、あの鈍重そうな F6F で零戦を抑え込んだ。

これが可能になったのは航空機自体の生産能力と、それに見合うパイロットの育成という国力と人口もありますが、航空機間の明瞭な音声通話で意思疎通が可能になった通信技術革新によることが大きい。

(意思疎通といえば日本では虎の子の機銃を発射して曳痕弾で編隊内の注意信号としていました。)

で、この通信技術によってサッチ・ウィーブは 2 機編隊のうちの 1 機が全弾撃ちつくしても囮を装い零戦を残弾のある追尾機の射程範囲に誘い込むというより、先に述べたように零戦は長い時間にわたって敵機を追尾しなければならない性向があり、心理的には追い込むこともできる。

航空戦闘で天才的な感と技量を持つ、一人の坂井中尉、10 人のフォン・リヒトフォーフェンが軽戦(格闘戦用途)の名機を駆使して闘っていても戦争には勝てない・・・

彼らに落とされる数より、落とす数のほうが多ければよい・・・(面白いことに・・・面白くもないか・・・出撃回数も関係するが、負けた側のエースの撃墜機数が勝った側のエースよりも多いようだ)

つまり、航空戦は、航空機の数と平均的な操縦士の数、が支配するという、第一次大戦の航空戦の消耗比からイギリス人が導いた「ランチェスターの法則」を、戦闘システムとして、拡大証明する時代となっていました。

(イギリス人はこと戦争に関しては常に冷静です。戦闘機は、空戦中に落とし、落とされているか、というとそうでもなく、訓練中、作戦行動を含む移動中の喪失も多い、時には味方の誤射で落とされている。英国では第二次大戦中の味方の誤射による撃墜ついても調査し、公表もしている・・・閑話中の閑話休題)

さて、日本はその第一次大戦でも航空戦には数人の義勇兵がフランスの航空隊に参加したのみで、国家として得た知見は戦後の軍縮会議で戦艦保有数の劣勢を覆そうとイタリア人ドゥーエなどの長距離(戦略)爆撃> * の応用に向かいました・・・

零戦はその中から護衛戦闘機として生まれてきました。その意味では、新しい(航続距離=軽量化)とも、古い(軽量化=格闘戦)ともいえる運用思想の戦闘機でした。

* 当キネマ航空のラウンジのキネマ・エアラインズ・マガジンの特集「B - 25 ミッチェル 二人の軍人の間に存在する爆撃機」の中で掲載中です。

あー、いかん、宮崎駿の軍事オタクがうつってきた。(長~い閑話休題)

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さて、前回の、米軍機は戦闘空域に入っても増槽に「大量の」燃料を残している謎は解けたでしょうか?・・・それは増槽装着時の燃料消費量の計算で手抜きがあったからです。

増槽装着時の巡航燃費の計算は増槽装着時の巡航距離を全搭載燃料で割るのではなく、

増槽装着時の燃費(Km/L)={増槽装着時の巡航距離(Km)-標準時の航続距離(Km)}÷増槽燃料(L)

これで計算すると P - 51 の増槽装着燃費は先の 1.94 Km/L は1.79 Km/L となり 8 %は悪化します。

ただし、巡航速度は増槽あり、なし、で変わります。たぶん零戦21型に二つある巡航速度は遅い 296 Km/h のほうが増槽付、早い 333 Km/h が標準時と思われるのだが。

いかし、他の比較機では双方のデータはそろいませんからカタログデータの早いほうを使って「良し」とする・・・え!さすが課長はここまで見通していらしゃった・・・で、

再計算した結果は、

(注:増槽の巡航燃費を変更し、関連項目の変更をオレンジで表示しました。)

型式 三菱
零式艦上戦闘機
グラマン
(艦戦)
ノースアメリカン
(陸戦)
21型 52型 F6F P-51D
 巡航燃費(Km/L) 標準 4.23 3.37 1.85 2.05
増槽 3.42 2.17 1.23 1.79
 巡航時間(h) 標準 7.51-6.67 5.70 5.46 3.33
増槽 11.32-10.06 7.76 7.64 5.08
 巡航時間燃費(L/h) 標準 70.0-85.5 100 173 283
増槽 75.5-85.0 115 198 298
 戦闘行動半径(Km) 標準 717 960 315 403
増槽 1,265 1,280 760 708
 増槽飛行距離(Km) 増槽 1,129 694 699 1,017
 増槽距離/行動半径比 0.89 0.54 0.92 ** 1.45
 戦闘域往復時間(h) 標準 4.84-4.30 4.60 1.96 1.52
増槽 8.54-7.60 7.60 4.72 2.44
 戦域滞空時間(h) 標準 0.5 0.5 n.a. n.a.
増槽 0.5 0.5 n.a. n.a.
 戦域往復燃料(L) 標準 339 460 341 393
増槽 661 874 1,002 913
 戦域滞空燃料(L) 標準 186 110 605 551
増槽 194 16 512 569
*** 戦域滞空燃料比 標準 5.31-4.35 2.20 6.99 3.89
増槽 8.56-8.51 0.33 5.92 4.02
** P-51 では戦闘空域で増槽に残る燃料は投棄することにして以降の計算をした。
    投棄量は 176L、飛行距離で 326Km 相当

***  = 戦域滞空燃料(L)/ 戦域滞空時間(h)/巡航時間燃費(L/h)
      米軍機の戦域滞空時間も0.5時間として計算した

結果、 F6F は戦闘空域に入る直前に増槽を使い切り、 P - 51 ではまだ燃料が残っており、増槽を付けても優位な高速性能を使って会敵するまで増槽を投棄しなかったのかもしれません。

あるいは、運転温度の安定した液冷エンジンの高速連続耐久性能が十分にあれば巡航速度を公称値より速くして前線へ急行することに使ったかもしれません。

一方の「零戦」はかなり手前で増槽を切り離すことができました。

さて、戦闘機で肝心な性能は巡航速度です。その結果得られた航続時間は、今でいうと寮(基地)から会社(戦闘空域)までの往復通勤時間です。

勤務先での就業時間は戦域滞空時間の 30 分であります。

従業員(戦闘機パイロット)が上げる業績(つまりエースとなるに)は、日本では(だいたいが一人作業で)実働 30 分のうちの 1 分 30 秒の結果で査定します。

いっぽうのアメリカでは 30 秒、さらに言えば 2 機の共同作業ですので 正味 1 分で査定されています。

いずれにせよ、零戦で 1,000 キロメートル隔てた長距離侵攻作戦を行う場合は、片道 4 時間、往復で 8 時間の通勤時間と 30 分の就業時間を合わせると 1 日当たり 8 時間半の勤務となります。

(これが何日も何か月も続きます。「素晴らしかった昔の日本人」でも嫌になることはある、と思えるのですが・・・人間は愛国心だけで戦争を続けられるのか・・・それができれば今でも自己愛や家族愛でブラック企業で頭角も現せることになるのだが・・・「愛」のどこかが違うのか・・・閑話休題)

さて、これだけ長時間の作戦ですから、ほぼ毎日毎日、同じような時間帯を使って実施されます。整備兵は、夜なべの整備に弾薬補給、毎朝暗いうちから手回しポンプでドラム缶4.5本/を給油しています。一方、敵も手の内が読めてきます。

迎撃する P - 51 は増槽なしで 400 km 進出できますから、これでは、零戦の時間表にあわせて1時間20分後に出発すると 41~2 分で、零戦隊が発進から約 2 時間経過し、600 Km のところを、まだ増槽を使って飛行している編隊をキャプチャーできます。

もちろん出発時間を遅らせて相手を疲れさせることもできます。P - 51 は戦闘時間を含めて 2 時間弱の勤務となります。

・・・なお、以上の零戦と P-51 の遭遇シミュレーションは、かつて実際に行われた特定の作戦ではありません。1,000キロメートル離れた実際の戦闘では 、P-51 が侵攻側を務めていました。

P-51 が、紙製の大型増槽を付けた戦闘行動半径(推定 1,126 Km )で零戦なみの侵攻作戦を行う場合、往復 4 時間(日本版ウィキペディアの巡航速度では約 6 時間半)の勤務となりますので、「どっちも、どっち」、でありますが・・・

で、米軍は、既定の回数を出撃すればローテーション休暇があるようであります。我がほうは後方での休暇は、とてもとても・・・。

あっちのほうの問題では、ちゃんと私設の慰安所を設置しております。米軍の場合は、ハリウッド映画によると、休暇で後方に下がった時や前線でも従軍看護婦とよろしくやっているようでありますなー。
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へなちょこ参謀:「イヤァー、作戦課長どの、わが兵は、こうして休みなしで毎日毎日、長時間の過酷な労働条件でよく戦ってくれてますねー。零戦勤務は後年問題になるであろうブラック企業も顔負けと言えますなー」

作戦課長:「キッ、貴様ーッ、恐れ多くも、(陪席参謀達:起立して軍靴の踵を合わせる、カッ)、の名機零戦や搭乗員になんたることを言うーッ!土下座だー、銃殺だー、いや、切腹しろーッ、介錯は俺がやってやるー!」

陪席参謀:「マア、マア、作戦課長どの、ここはどこかの国でも前線でもないので、それは拙いです」

へなちょこ参謀:「さ、作戦課長どの、彼等はお国のために毎日毎日休みなく戦ってくれております。外国のスポーツ選手だって、国と自分の名誉のために戦いながらも、長く続ければ気持ちが折れることもあります。そんな時はこっそりとドーピングを行っています」

「幸い、わが国にもヒロポン **** という薬(日本人の創薬)があります。「疲労倦怠感を取り除き、眠気を吹き飛ばす」という効能があります」

「これを栄養剤として注射器といっしょに与えて、3,000 米の高度に上れば酸素をいくら吸っていたって飛行機乗りの 6 割頭 ***** と相まって・・・」

作戦課長:「ウーム、いずれ戦争は終わる。その時は備蓄したブツを・・・・ブツ、ブツ、ブツ・・・」
(くどいようですが特定の作戦課長がモデルではありません!)

**** 念のため、(いまでこそ、依存中毒性があり禁止された副作用の強い覚醒剤ですが)当時のヒロポンは 違法でもなんでもなかった ことは申し添えておきます。
***** 高山病と同じ低酸素症や低温で思考力や判断力が鈍り、単純な加減算もあやしくなる。

戦局の終盤に、P - 51 が長駆、日本本土に来襲するときは、いくらかは短い時間ではありますが同様の恐怖は味わっていたはずではあります。

士気を鼓舞することは同じように相手の国でも行われていました。いずれにせよ戦争はブラック国家がやるものでありますなー。

(戦争のブラックさは当キネマ航空 003便の、「キャッチ 21」や「M*A*S*H」でどうぞ)

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本来の開発目的であった護衛任務を伴う作戦ができなくなった戦局では、零戦 52 型の長い航続距離は体当たり攻撃に使われることになりました。しかし、この目的では 52 型の航続力は長すぎたようです。

搭乗員の目の前で給油していたのかどうか、片道ですから燃料を減らして出撃させることになります。

しかし、敵艦隊を見つけたときには燃料をほとんど使い切り、気化したガソリンが充満した暴露面積の広い ****** 両翼に各255リットル入りのタンクは、目標である航空母艦の周囲のピケット艦から打ち出される曳痕弾や近接信管装着を装着した炸裂弾の高温になった破片の通過で引火し爆発を起こします ******* 。・・・特攻「零戦」はもう一つの爆弾を背負わされていました。

****** 52 型の翼内タンク容量を21型と比べると 130L 多く、翼厚は変わらないため致命的な被弾面積は 34 %広くなっている。
******* 炭酸ガスを充満させる自動消火装置を付けていた機体もありました。しかし、タンクがそのまま引火爆発されては作動は間に合わなかった、と思われる。

自動消火装置の設計は、タンク内に帰投するための燃料が残り、気化燃料ガスの体積が少ない時にガソリンに着火して炎が出た場合に機能する仕様だった、と思われる。ただし漏えい防止の防弾タンクではないため燃料は漏れてゆき、帰投できたかどうか・・・

思われる、思われる、ばかりで気は引けるが、そのことは承知で、標準爆装の 60Kg 爆弾 x 2 に替えた 250Kg や 500Kg の大型爆弾の重量と引き換えに、機銃と同様の理由で炭酸ガスボンベも外させて出撃させていたことはなかったのか?

それとも敵に接近した時に、手動で燃料タンクに炭酸ガスを封入する指導をして出撃させたのか・・・戦争と工学の関係はやりきれないものがあります。

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零戦の戦闘行動半径は米軍のライバル機と比べると2倍もしくは2倍近く大きい。これが双方の基地もしくは空母配置の間合いを決める。

航空戦での航続距離は、奇襲と偵察、に効果がある。攻撃を日常化したりCAP(戦闘偵察)行動をするには兵装時の巡航速度が決め手となる。

米海軍が、少なくとも司令官や参謀が体当たり攻撃を恐れたとすると、この戦闘行動半径の間合いを乱されることであったろう。

また、最終的には戦争は陸上の戦闘の成否で定まる。

艦船に対する体当たり攻撃は、後方の司令部の幕僚にとっては、考えうる防御のなかで生じるコラテラル・ダメージ(避けられない損害)の範囲で敵が自ら兵力を確実に漸減させてくれている、と考えていても不思議ではない。

毎日10機のカミカゼが吹けば10日で100機、一月で300機、3か月で1000機を喪失するであろうことは、本土に上陸した歩兵のうえに降り注ぐ爆弾、機銃弾の数がそれだけ確実に減ったことをカウントしていたはずである。

勇壮な映像をイメージするメカニズム同士をカタログで比較して、航空機vs航空機、航空機vs艦船、艦船vs艦船、の戦闘の勝敗で戦争の帰趨が決まると考えているのは零戦神話を持つ日本人だけではないのだろうか。

ちなみに、戦闘艦隊や輸送船隊に対する特別攻撃機を含む航空攻撃に対応する防御法を考案したのも前述のサッチ少佐でした。

・攻撃空母艦隊や護衛空母を伴う輸送船隊から離れて展開する戦闘哨戒機隊
・艦隊、船隊の上空に待機する迎撃機編隊
・艦隊、船隊の周囲に円陣を組んだVT信管装着弾を打ち上げる駆逐艦隊によるレーダー・ピケット・ライン

という、いずれも通話技術が支える物量 3 点セットの組み合わせでした。

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次回でまとめて「風立ちぬ」最終回になるはず・・・

2013年10月20日 (日)

キネマ航空CEO 「風立ちぬ 」、零戦の「美しさ」と「怖さ」について考える (その 2)

今回から、零式艦上戦闘機の通説の「怖(おそろし)さ」について、考えます。(2013.10.17 初公開)

まずは例によって、寄せ集めの性能表の作成から・・・(2013.10.18 に各表の数字その他の補足と修正を行いました。詳細は表に付けた注記でご確認ください。より信頼性のあるデータを得た場合には再度の修正をおこなう場合もあります)

ここでは、零戦のひねり込みがどうの、空戦性能がどうの、といった、(あなたが知りたい)前線で扱う側の兵隊の視点で見た零戦ではなく、(海軍機だから)軍令部作戦課長となって作戦を立ててみる、ただし、展開としては過去と現在が混線したシミュレーション・ゲーム、というわけです。

後方にいる作戦課長には兵隊の視点など必要ありません。兵隊は、「ひねり込み」だろうが何だろうが、戦えばいいのです。あっ、いうまでもなく、演ずるのはかつて実在した作戦課長ではありません。

それにしても比較対照となる戦闘機が違うだろう、と思われるかもしれない。

でも、課長どの、国民の大半が信じている世界最強にまで神格化された「零戦」にグラマン F4Fカーチス P-40 ウォーフォーク を当てては失礼にあたりましょう。

でも、こんな性能に、あの「ゼロの怖さ」があるのか、ですって?

・・・あるのです。

公表されている性能諸元表の個々の数字は一見もっともらしいのですが、あまり問題にされない数字に少し加工を加えると、「へぇー」という数字が浮かんできます。

特に「三菱零式戦闘機 52 型 (A6M5)」は、戦闘機としてはとんでもない数字が現れます。では、もとになるその性能表から・・・(注: 赤字は追加データ  2013.10.18 )

型式 三菱
零式艦上戦闘機
グラマン
(艦戦)
ノースアメリカン
(陸戦)
21型 52型 F6F P-51D
燃料容量 (L) 胴体 145 60 946 246(標準)
322(最大)
翼内 380 510 non 696
落下増槽 330 320 568
1,707
284X2(標準)
409/416X2(紙製)
625/644X2(大型)
潤滑油(L) 63.5 52
航続距離(Km)
巡航時 標準 2,222 1,920 1,759 1,931
増槽 3,350 2,615 2,460 2,945
(標準X2)
3,412
(大型X2)
戦闘時 標準 全速30分
1,433
全速30分
1,550
630 805
増槽 全速30分
2,530
全速30分
2,560
(標準)
1,520
(標準X2)
1,416
(紙製X2)
1,609
巡航速度(Km/h) 296-333 337 322 580
最高速度(Km/h) 533
/4,550m
565
/6,000m
621
/7,100m
703
/7,600m
上昇力 -
6,000m/7.5分
-
6,000m/7分
3,000m/4.65分
6,100m/10.0分
17.9m/秒
/2,133m
兵装装弾数
口径/発射速度 7.7mm
(プロペラ同調)
700X2
500-700/分
700X2
500-700/分
12.7mm 400X6
800/分
400X2 270X4
800/分
20mm 60X2
500/分
100X2
500/分

零式戦闘機の数値は通説を形成する基本の数字を掲載していると思われるウィキペディア(野沢正 編著『日本航空機総集 第一巻 三菱篇』(出版協同社、1981年改訂新版)からの引用)と「世界の傑作機 No.55、No.56 文林堂」を用いた。他は英文のWikipediaなどからを日本の関連本と照合した寄せ集め。

例によって航空機の寸法はともかく、重量や性能は国どころか会社が異なれば同じ条件で測定されているとは限らない。

こうして寄せ集めでできたデータを、ああだ、こうだ、といっても、突き詰めれば作戦参謀がいつも正しい情報を手に入れるとはかぎらない。だいたいこうした数字は検証できないのであります。

さて、作戦を立てるには、一応のルールが必要になる。本作戦は制空戦闘に限定して兵装は機銃のみとする。落下タンク(増槽)は標準容量とする。邀撃側は増槽なしでの行動もできることにする。

立案の前に搭載する燃料の容量を整理して、重量を計算してみる。比重は 0.7 とする。

型式 三菱
零式艦上戦闘機
グラマン
(艦戦
ノースアメリカン
(陸戦)
21型 52型 F6F P-51D
 燃料容積(L) 胴体 145 60 946 246/322
翼内 380 510 non 698
機内搭載容量 525 570 946 944/1,020
落下増槽 330 320 568 568
総搭載容量 855 890 1,514 1,512/1,588
 燃料重量(Kg) 胴体 102 42 662 172/225
  比重 0.7 翼内 266 357 non 487
機内搭載重量 368 399 662 659/712
落下増槽 231 224 398 398
総搭載重量 599 623 1,060 1,057/1,100

ノースアメリカン P-51 の胴体搭載容量が二つあるのはタンク位置が重心から離れており空戦時には少ないほうの容量にしておく必要がある。したがい通常は差の 76 L (53kg 約 150Km 相当の飛行距離)を搭載しなかったようだ。

一回の出撃で零戦は 900L 弱、米軍機は 1,500L 強、ドラム缶にしてそれぞれ 4.5 本弱、 7.5 本が消費される。

税金は自動車用の(53.8円+消費税)/Lに対し航空機用は(26円+消費税)/Lである。現在、零戦を一機出撃させるといくら掛かるでしょうか・・・銀翼連ねた大編隊なら・・・えーと。その前に、「海上護衛戦 大井篤 1983 朝日ソノラマ」を読むと当時は前線にガソリンを供給する問題など、まともには考えられていなかったようだ。(閑話休題)

さて、上記のように出撃から帰投するまでに機体のそれぞれ重量は徐々に 600 Kg から 1 ton、(+ 増槽本体、機銃弾) も軽くなる。その結果、最高速度、巡航速度、上昇性能は向上し、それぞれの運用高度も変わってくる。

重量変化を織り込んだ諸性能の変化を推定する計算式はある。なかでも航続距離は公称値自体が短い時間に測定した実測値を使った計算で行われている。

要すれば、零戦には 1、米軍機には、謀略に使う軽負荷荷重の公称値*だとして 0.8 なり 0.7 の修正係数を掛けるなり、上昇性能では割る、なりをすればいいのでありますね。

* (ウィキペディアにおいても P-51 の巡航速度は、日本版で 443Km/h 、英語版で 580Km/h と異なっています。ここでは他のデータのそろった英語版を採用しています。前者が増槽付、後者が標準状態とも思えますが確たる資料は見つからなかった)

だいたい、いらち(癇性)の参謀は部下の計算結果の進言など受け付けず、自分でテキトーにやっちゃうのであります。

でも空気の読めないインスタント参謀の当CEO は以降の計算に、これを反映させないことにして進めます。では・・・

・ 巡航航続距離を搭載燃料で割るとリッターあたりの飛行距離(燃費)が得られる。
・ 巡航航続距離を巡航速度で割ることで巡航時間をえる。
・ 搭載燃料を巡航時間で割ると時間当たりの巡航時間燃費が得られる。

なお、戦闘機の重要な性能は航続距離ではなく戦闘行動半径です。これは基地(もしくは航空母艦)からの進出距離(航続距離÷ 2 )と戦闘空域での滞在時間となります。いうまでもなく航空母艦は戦闘行動半径上にいると仮定します。

さらに、

・ 戦闘航続距離をそれぞれの巡航燃費で割るとこの区間の必要燃料容量が得られる。

次ぎに、

・ 搭載燃料からこの必要燃料容量を引くと戦闘空域で使用可能な燃料容量が算出できる。
・ この許容燃料容量に戦域対空時間を掛けて巡航時間燃費で割ると戦闘時のエンジンの出力余裕が推定できる。

さて、計算結果は下表のように燃費は抵抗となる増槽を用いたほうが悪くなる。当然ながら巡航速度も異なるが巡航時間を求める計算では同じ数値の速度を用いた。

したがい、増槽は戦闘空域に到達する前に(敵に遭遇すると燃料を残したままで)切り離すので、往路復路の条件は異なるが計算では同じとした。参謀は細かいことに気を取られてはいけないのです。

以上を整理して下表にまとめると、だいたいの作戦立案が可能な情報になる。
(注: 赤字は追加データによる補足。青字は数値の訂正および誤記の修正、項目追加など 2103.10.18 )

型式 三菱
零式艦上戦闘機
グラマン
(艦戦)
ノースアメリカン
(陸戦)
21型 52型 F6F P-51D
 巡航燃費(Km/L) 標準 4.23 3.37 1.85 2.05/1.89
増槽 3.92 2.97 1.62 1.95/1.85
 巡航時間(h) 標準 7.51-6.67 5.70 5.46 3.33
増槽 11.32-10.06 7.76 7.64 5.08
 巡航時間燃費(L/h) 標準 70.0-85.5 100 173 283/306
増槽 75.5-85.0 115 198 298/313
 戦闘行動半径(Km) 標準 717 960 315 403
増槽 1,265 1,280 760 708
 増槽飛行距離(Km) 増槽 1,294 849 920 1,102(/+141)
 増槽距離/行動半径比 1.02 0.66 1.21 1.56/1.75
 戦闘域往復時間(h) 標準 4.84-4.30 4.60 1.96 1.52
増槽 8.54-7.60 7.60 4.72 2.44
 戦域滞空時間(h) 標準 0.5 0.5 n.a. n.a.
増槽 0.5 0.5 n.a. n.a.
 戦域往復燃料(L) 標準 339 460 341 393/426
増槽 647 871 938 730/765
 戦域滞空燃料(L) 標準 186 110 605 551/594
増槽 364 19 576 782/823
 戦域滞空燃料比 標準 5.31-4.35 2.20 6.99 3.89/3.88
増槽 8.56-8.51 0.33 5.82 5.24/5.26
   = 戦域滞空燃料(L)/ 戦域滞空時間(h)/巡航時間燃費(L/h)
      米軍機の戦域滞空時間も0.5時間として計算した

まず巡航燃費では、米軍機は零戦の2倍程度大食いである。公称エンジン出力が2000馬力級と1000馬力級の差とすれば妥当であろう。

さすがに日本機は燃費が良い、という問題ではなく燃料のロジステックス(兵站)の問題です。その前に燃料のオクタン価等々の質の問題がありますが、ここでは置いといて・・・

増槽は使い切る前に敵と遭遇すると切り離さねばならない。増槽(飛行)距離/(戦闘)行動半径比は増槽にいくらのマージンを持たせて部下に出撃を命令するかの目安になる。

1 以下の零戦は戦闘空域に到達する前に増槽燃料を使い切る。効率的といっていいのかどうか・・・

問題はこの戦域滞空(燃料)である。これは戦域で空戦を行う場合の時間当たり燃料と巡航時の時間当たり消費燃料の比。

零戦 52 型では標準状態でも、米軍機と比較すると少ない燃料で空戦を行うことになる。投棄できない機内燃料が軽くなることで空戦性能が米軍機より向上する、ともいえる。

しかし、増槽を付けた場合は 0.3 しかない。こうなると、まともな戦闘ができるかどうか・・・空戦時は巡航時の数倍の燃料消費があるのだが・・・

もちろん、これらの数字は戦闘行動半径を小さくすれば補えるのだが、結論として、

増槽を付けた零戦 52 型は、公称値の戦闘航続距離を使った長距離侵攻による制空戦闘などできなかった。零戦は長大な航続力で世界を圧倒しつづけた、とはとても言えなくなっている。

よく言えば、増槽なしでおこなう防空戦闘機の仕様であった。しかし防空戦闘機としての(上昇)性能や(統一機銃)兵装ではなかった。

零戦の開発目的は雷・爆撃機の護衛戦闘機であり長大な航続距離は、速度の遅い爆撃機の編隊に合わせて飛ぶためのジグザグ航跡を引き延ばした距離である。

想像しがちの零戦の編隊が直線距離で行う制空戦闘を行う仕様ではなかった、が・・・航続距離については、零戦 21 型で行われたガダルカナル航空戦などの情報が過大なイメージとなって 52 型にも付いてまわっているようだ。

零戦 52 型は、戦局が護衛戦闘機として使われる作戦など事実上できない時代への改造、であり 、この、52 型の時点で零戦の持つ航続距離の用途は限られてきた。といえる。

まず、以上の結論の元になった表に集めたデータが正しいのかどうかについては、数値には直接引用もしくは孫引きの過程での誤記が考えられる。

また、堀越技師が関与していたとは思えないが、もともとの数値自体を改ざんして公式仕様書とした可能性も残る。この増槽による航続距離を使った作戦では仮に未帰還機があっても仕様書の数値まで疑われることはなかったであろう。

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いずれにせよ、零戦の仕様書による戦闘行動半径を使えば米軍機をしのぎ、アウトレンジ戦法を使った作戦が可能のようであります。

でも長くなったので、もっと「怖ろしい」作戦の詳細は次回にゆずることにします。米軍機は戦闘空域に入っても増槽の燃料が大量に残っている、などの謎を含んで次回につづく・・・ことにして、今日はパーッとやりましょう。作戦課長どのっ!パーッと!

2013年10月10日 (木)

キネマ航空CEO 「風立ちぬ」、零戦の「美しさ」と「怖(おそろし)さ」について考える (その 1)

オスプレイのはなしも「つづけねば。」、と思うのだが・・・今回は「風立ちぬ」の宮崎駿監督が示す神格化された「ゼロ」に対する「苛立(いらだ)ち」について考える・・・たぶん、見当違いと一蹴されるとは思うけど。

まず、零式艦上戦闘機の「美しさ」から・・・

お詫び
当オフィスへおいでになる方のほとんどは機種名だけで具体的に細部を思い描かれる方とお見受けします。
したがい、図面や写真の掲載は行っていません。
要すれば、機種名を検索しウィキペディア(できれば英文サイト-写真や三面図を見るだけですから)を参照いただければ幸いです。

飛行機の美醜は主に側面からの印象のようです。くわえて、やや前方から見た正面を含めた、いわゆる写真映りが決め手となる。

(ただ、飛行機の本質は平面図にあるのだがそれはまたの機会にして、・・・)

すなわち単発単座戦闘機の美醜を決める要素は発動機の形式と操縦士の着座状態から導かれる胴体形状のデザインといえる。これを決めるのが設計主務者すなわちチーフ・エンジニアの感性となる。

零戦」の発動機(エンジン)は空冷星形であり基本は円である。また胴体の形状は操縦士の座高と肩幅が基準となる。

零戦はこの二つの基準となる形状を先端のプロペラのスピナーから円形のカウリング(エンジン覆い)を通り、尾部の尾部航空灯までを一直線で貫いている見えない機軸線が明らかに存在すること、を意識できることが「美しさ」の基本となっている。

この機軸線はプロペラの回転面に直角すなわちエンジンの中心(クランク軸)にある推力線に一致している。

余談ながら正面から見るとすわりの悪い液冷V型の場合はシリンダー・ブロックがクランク軸の上(倒立V型の配置では下)にあり、通常、推力線となるプロペラの軸線は減速歯車でエンジン全体の中ほどに持ってきており、機首の形状の処理にもよるが零戦のような明快さはない。(閑話休題)

零戦の胴体はこの軸に一致した、しかも後端は鉛筆の芯のように鋭く尖った円錐体である。

ただ、少なくとも頭一つは胴体側面の基本形状からはみ出して視界を確保させなければならないため円錐体にもキャノピーと呼ばれる突起部が必要となる。キャノピーには独立した水滴型風防と胴体と一体になったファーストバック型がある。

この円錐体の重心付近から始まる格子窓で構成された水滴型風防と、バランスとしてはやや大きめな対称形を基本とした富士山型の垂直尾翼の裾野が胴体後端の尖った後部航空灯に円弧を描いて収束している。

零戦の風防は着艦時の前方視界を確保するため(座席を上方にスライドさせる余裕で)高くなっておりその形態を収束させるため他機種と比べると高く、長く、なっている。

円錐体の胴体とはいえ、操縦席あたりからは操縦士(パイロット)の平均的な体格(肩幅/座高)を収める長方形が胴体後部の形状を決める・・・。

下表は第二次大戦の代表的な単発単座戦闘機の後部胴体(風防後方部分の)断面形状を横幅(肩幅に相当)を縦幅(座高に相当)で割った比を示している。なお * 印はいわゆるファーストバックの機体を採用している。

機名 就役
胴体
後部断面
縦横比
機名 就役
胴体
後部断面
縦横比
三菱 零式艦戦 1939 0.83 グラマンF4F 「ワイルド・キャット」* 1940 0.77
三菱局戦 「雷電」* 1944 0.75 グラマンF6F 「ヘル・キャット」* 1943 0.65
川西局戦 「紫電改」 1945 0.82 カーチスP-40 「ウォーフォーク」* 1941 0.63
中島一式 「隼」 1940 0.65 ノースアメリカンP-51B「マスタング」* 1943 0.58
中島二式 「鍾馗」 1942 0.56 ノースアメリカンP-51D「マスタング」 1944 0.65
川崎三式 「飛燕」* 1943 0.63 スーパーマリン スピットフィアMk.I* 1938 0.57
川崎五式 1945 0.72 メッサーシュミット Bf109E* 1939 0.57
中島四式 「疾風」 1944 0.73 フォッケウル フFw190A 1942 0.57

この時代の戦闘機の胴体断面が真四角ということはないので上下面に丸みがある。

表の縦横比が 1 に近いほど円に近くなり、小さくなるほど胴体は縦長の楕円もしくは長方形の四隅に丸みのある形状に近づく。

厳密には構造設計から判断されなければならないが、上記の縦横比が小さいほうが強度(剛性)のバランスが取れた機体になれる可能性が高い。

なぜなら、飛行機は急降下からの引き起こしや上昇・下降の突風に巻き込まれることを想定すると上下方向の剛性は横(左右)方向に比べて強くなければならない。

機体としての剛性を考えると長方形に近い形状が好ましい。円はあらゆる方向に同じ剛性を持たせることになりがちである。

その前提で縦横比を見ると欧米機は「ワイルド・キャット」を除き 0.6 前後に設定されている。日本機では中島「」、「鍾馗」、川崎「飛燕」は欧米並みだが空冷化した「五式戦」になると 0.7 以上になっている。

また中島飛行機の集大成といえる「疾風」も 0.7 を越えており前作の「」、「鍾馗」に似てはいるがそれらの延長で設計されてはいない。

零戦をはじめとする日本の海軍機の胴体は、より円に近い楕円形で構成されており同時代で比較すると特異な形状といえる。

さて、胴体は空力的に翼と同じ働きをする。

当キネマ航空009便のフライト3で上映中の「グレート・エアレース」のなかで胴体を垂直尾翼にするにしても、やりすぎると危険、という例を示しています。結構人気のある機体なんですけれどね。(閑話休題)

とくに、ヨー(左右方向の首ふり)に対する風見鶏もしくは矢羽根の効果は胴体を扁平にすることで効果があり垂直尾翼の高さを低くすることが可能になる。

たとえばP-51Bのファーストバックから水滴キャノピーに改設計したP-51Dでは縦横比が 0.07 ポイント大きくなってドーサルフィン(垂直尾翼から胴体上を低く前に伸ばした三角形状のひれ)を追加している。

飛燕から同様の改造を施して 0.09 ポイント増やした五式戦では垂直尾翼の前縁を前に伸ばして面積を増やして対応している。

さて、表に掲載した機種では、機体後端を垂直尾翼の翼型に収束させて垂直尾翼の全高を方向舵に使っている例が多い。例外は三菱の「零戦」、「雷電」とグラマンの「F4F」、「F6F」のみである。

胴体後端を比較すると「零戦」は鉛筆の芯の先のように尖っており、方向舵の可動部は胴体の上で終わっている。グラマンの胴体は楔形に収束して垂直尾翼の一部を構成しているが方向舵としては使っていない。この点では零戦と同じである。

「やはり海軍機はそうだろ」、と思われるかもしれないが、艦上機に必須の着艦フックの収納位置が異なっている。「零戦」では尾輪の前、一方のグラマン(に限らず米艦上機)は尾輪の後ろ(胴体後端)となっている。

着艦時の運用上の合理性は着艦ワイヤー(アレスティング・ワイヤー)を踏み越えなくてもよいグラマンにあるようだ。

日本の海軍機も中島「彩雲」、「天山」、愛知「流星」などは着艦フックの位置は変えずに胴体後端を含めた垂直尾翼の全高をつかった方向舵を採用している。もちろん中島飛行機が「零戦」を改造した「二式水戦」も同様である。(閑話休題)

一般に「美しさ」は他とは異なることで認識される。

「零戦」の「美しさ」は縦横比 0.83 の胴体のゆたかな丸みにある、といえる。

そして、

先頭のプロペラ・スピナーから鉛筆の芯のように鋭く尖った後端で終わる推進軸に一致した機軸を中心軸とした円錐体に近い胴体にある。

(愛知「九九艦爆」、中島「九七艦攻」などは似てはいるが推力線とは外れた軸を持つ円錐体である。)

これに加えて「零戦」の場合は、格子天井、格子窓といえるキャノピーと、これもまた背の高い垂直尾翼が曲線と直線を組み合わせた日本的な美しさを取り込んでいる。

三面図を解析すれば黄金比(1:1.618・・・)が隠されているのかもしれない。

推力線を軸にした後端の尖った円錐体のテーマは、三菱「96艦戦」から「烈風」に続く堀越二郎氏が追及した美の姿である。

堀越氏の限界は、その円錐体をベースにキャノピーや垂直尾翼をパートとして組み合わせる「美」を追求したこと、ともいえる。しかし「烈風」では破たんしているとしか言いようがない。

時代はそれらのパートを胴体に融合させて機能を統合することで軽量化や性能を追求し、エンジンの性能でそれらを割り切る時代・・・、酷(むご)くいえば異様な美で戦争を勝ち抜く時代にあっても、氏はそこに立ち入らなかったともいえる。

いい変えれば、他とは異なることで得られる美の追求で失った、戦闘機としての機能、性能があったことは明らかである。もちろん堀越氏のみの責任ではないことも明らかである。

ただ、堀越二郎氏への讃歌とすれば、同時代のイタリアの単発単座戦闘機のほとんどが氏と同じく円錐体にこだわった胴体を追求していた。

参考 カプロニ・レジャーネ Re.200 Re.2001 Re.2002 Re.2005
    フィアット G50 G55
    マッキ MC.200 MC.202 MC.205

ご存じと思いますが、イタリアと日本はドイツと組んだ日独伊三国同盟で国際関係の打開を図ろうとしました。そのイタリアと堀越氏ひいては三菱重工業は、ドイツの合理主義に貫かれた戦闘機ではなく自国の戦闘機に美を求めていた。

零戦を含めこれらの機種が「性能は良かったか」、「戦争に役立ったか」、とは別の「飛行機の美の本質」の追求であったことは間違いはない。

宮崎駿監督が「風立ちぬ」で、夢の中であれジャンニ・カプロニ伯爵(イタリア)と堀越二郎(日本人)の心の交流を描いたことはよく理解できる。

ただし第二次大戦時にはカプロニは自分の名をつけた航空会社の経営陣の一人ではあったが実際の設計は手がけていなかったと思われる。

他の映画に登場するカプロニ氏のオマージュ(パロディ?)としては当キネマ航空 009 便のフライト 3 で上映中の「素晴らしき飛行機野郎」のイタリア代表ポンティチェリィ伯爵ではなかろうか?ちょっと歳を食いすぎているが・・・

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さて、本来なら「飛行機の本質を現している平面形」の美の比較にも言及すべきだが今回はここまでとします。

たとえば、零戦で行った主翼端の処理方法の影響、中島飛行機の小山技師長の後退角のない直線の前縁などなど・・・いっぱいあるのだが。

次回は宮崎駿氏の苛立ちについて考える。

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