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2020年11月 2日 (月)

ミッドウェーの「運命の5分間」の後先き・・・スマート、ステディ & サイレント・ネイビィ (第ニの疑問 の手掛り)について考えるの巻

公開校正・校閲中です。2020/11/2 キネマ航空CEO
零式水偵の偵察席に航空羅針儀があるか、の疑問を修正しました。2020/11/16//27

珍しく今回は映画の話題も含んでいます。 さて、・・・「第二の疑問」とは

1942年6月5日東京時間 04:28 利根四号機より機動部隊司令長官に宛てた信文『敵ラシキモノ一〇隻見ユ「ミッドウェー」ヨリノ方位一〇度二四〇浬針路一五〇度速力二〇』で知らされた位置は・・・

利根四号機索敵推定図前回の参考文献 #2 にあった左図で示すように、一つ北の索敵線を飛ぶ筑摩一号機の第五索敵線上にあった。

図上の左クリックで別枠ウィンドウに拡大表示できますので、その注記にある報告位置の誤差の説明にご留意ください。

第二の謎すなわち利根四号機の謎は三つあります。

1.敵位置のミッドウェーからの距離が離れすぎている
2.命令通りの索敵線では報告の時間には敵艦隊に遭遇出来ない
3.しかし遭遇している。

なお、利根四号機は予定時刻より30分遅れて出発しており、現在の研究では磁方位偏差修正の手違いと出向前に行う羅針儀の自差修正未完の可能性に加えて命令された索敵コースから大きく逸脱して飛んでいたとされている。

出発遅延を含めて謎の原因もしくは理由にはいくつかの仮定から導かれる諸説があります。いずれにせよ利根4号機が最初に敵を目視発見できた唯一の偵察機でした。

この謎に迫る前に、当時の一般的な洋上飛行の航法には、現在のような Grobal Positioning System (GPS 全地球測位システム)はない。

いっぽう、陸地の固定発信局の二箇所から発信(輻射)される長波のパルス差を受信して、その時間差を計測し位置を割り出す Long-Range Navigation (LORAN ロラン航法)の設備が1942年に米国によって太平洋から展開を始められていた。

1942年はミッドウエイ海空戦のあった年ではあるが、この戦域でLORANが使われたのかどうかは定かではないが、恐らく航空機での運用はできなかったと思われる。

ただし、LORAN の基礎原理である長波の受信による方向探知は小型のループアンテナで可能であり、日本海軍機の中攻や大艇では機体上面に、単座の艦戦では座席の後部、艦攻、艦爆、水上機を含む艦禎などタンデム配置のコックピットでは航法士の座席の後ろまたは前のキャノピー内に設置されて活用されていた。

余談ながら、現在では LORANGPS に取って代わられて日本を含めて各国が運営していた基地局の運営自体が廃止されている。 LORAN に比べ国境のない GPS 衛星の脆弱性は明らかなのだが、米中ソ加えてEUは GPS を事の直前に破壊するあるいは混乱させる前提の戦争シナリオを構築し始めたのかもしれない。(閑話休題)

ループアンテナ(枠型アンテナ)の感度は(主には円環状、方形もある)ループの中心軸に直角の前後方向に8の字状に開いている指向性がある。

母艦から偵察機に「長波ヲ輻射セヨ」、「長波ヲ輻射シテ誘導セヨ」と命令したり、母艦や基地から輻射して帰投の援助に使われた。

映画「トラ・トラ・トラ (1970)」ではパールハーバーへ向かうシークエンスでホノルルの放送局の周波数に合わせて針路を修正している。

長波受信による方向探知は発信と受信のできる二か所の固定局と受信もしくは発信のできる一つの移動体(艦船または航空機)で構成できる三角形で二つの固定局間の基線(正確には移動体を頂点とする三角形の頂角)が十分にあればより正確になる三角測量の要領で以下の組み合わせで移動体の位置の特定ができる。

・ 航空機が双方の電波を受信できる場合、地図上で二つの固定局の位置からの角度で直線を引けばその交点が自機の位置となる。
・ 二つの固定局の共同作業で同時に対象としている移動体が発信する周波数の角度を得ることで同様に移動体の位置を得られる。

ミッドウェー作戦時は第六艦隊司令部の敵信班が後者の方法で敵空母の所在位置を早い時期に東京の大本営海軍部や連合艦隊司令長官、機動部隊司令長官等々に短波で送信し受信符号を得ていたが受信したとする側にはその記録は残っていない(#2#6)。

さて、この当時、長時間洋上を飛ぶ(機体上部に透明な半球状の天測窓がある)大型機では艦船と同様に航海士に相当する航法士(Navigator)が搭乗しており正確な時計(クロノグラフ)で得られる時間と夜間は特定の明るい恒星(北半球では主に北極星)、昼間は太陽の角度を測る六分儀で得た数値を読み解く分厚い数表三点セットを使って緯度経度を割り出す天測航法が使われていた。

比較的に低空を飛ぶ数人乗りの小型機では推測航法を行う飛行士(参考にしたDVDによる役職呼称)が搭乗し、航空羅針儀(精密調整ができる磁気コンパス)で操縦士が飛行士から指示されて維持している方位と、航空時計か精度を保証された腕時計機速計で求められる飛行距離に海面の波の方向と波頭の崩れ具合から得られる風向風速から偏角対地速度を算出して風に流された現在の位置を推測することで針路の修正を操縦士に伝え、航法図板上の地図に航跡を記録していた。

なお、推測航法には高度、温度など機速にかかわる空気密度の影響を修正するための計器や飛行する地域の磁気偏差などの予備知識が必要です。

タンデム配置の機体の飛行士の座席は、乗員 2 人の場合は後席で通信士を兼務、3 人の場合は中央にある。

艦戦など単座機では飛行士が乗る艦爆、艦攻が編隊を引率して敵に向かい、戦闘が終わると同様にして帰るか、母艦や基地からの長波に乗るか、または事前の情報と羅針儀のみを頼りに目視で発見できる所までたどり着くことになる。

さて、ここからの参考文献は既述の #0 - 7 に以下を追加する。
後日ナンバリングを発表年に合わせて再編集します。

 #8 太平洋の嵐 ハワイ・ミッドウエイ大海空戦 1960 東宝ビデオ
 #9 実録 太平洋戦争 六大決戦、なぜ日本は敗れたか 秦郁彦 1984 光風社出版
 #10 彩雲/零水偵 保存版軍用機メカシリーズ3 雑誌「丸」編集部 光人社
 #11 海軍航空教範 軍極秘・海軍士官搭乗員テキスト 押尾一彦 野原茂 2001
 #12 海軍航空の基礎知識 雨倉孝之 2003 光人社
 #13 海軍水上機隊 高木清次郎ほか 2017 光人社NF文庫 初掲誌「丸」

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ここで飛行士のお仕事を #8 のDVD で推測航法のおさらいをしておきます。
(画像上の左クリックで別窓で開きます)

なお、DVDの機体はハワイ作戦時の九七式艦攻ですが零式水偵も同様で、前から操縦席、飛行士席、電信席のタンデム三座の配置です。一般的に機長には操縦士か飛行士が付くようです。

Photo_20201030225301 オワフ島に向かう飛行士が爆撃照準器を覗いて海面の波頭を観測して偏流角を測定し航法計算盤で航空図板の地図上に方位角で表す針路を計算している。

 なお、飛行距離は飛行速度と進撃針路に乗った時点からの時計の経過時間で計算をしている。余談だが画像の腕時計は当時の精工舎謹製の支給品ではないようだ。

 計算盤は「加減、乗除」のうち「乗除」ができる計算尺と偏流角を三角関数に直したり気温、気圧から得る機速の修正係数などの早見盤の機能があり、加えて磁方位と真方位(地図上の方位)の変換機能もあるはず。

 では、「加減」はどうするの、と問われても、たぶん筆算か暗算で行うのだろうとしか・・・。

1 飛行士が航空図板に固定してある航空図にはオワフ島までの進路を書き込んである。
 板上にはデバイダーがあり飛行士の前にはそれなりの水平面(机)と空間があるようだ。

 地図上の緯線と経線の交点にある方位円は経線方向を真北を〇度にした時計回りに三六〇度方位を刻んでいる。

 また、日付変更線を東に越えたこの地図では北緯線が北に上るほど隣り合う西経線の間隔が狭くなり北極点では一点に集中してしまうのだが、地図上では方眼紙と同じように正方形または長方形を使っている。

 なお、航空図板としては透明のカバーの下に地図を折りたたんで挟んでいる。カバーには各方眼の右下に手書きの数字が書かれている。地図は日本語もあるが地名は英文のままだが当時の使用地図としては、米国の地図に日本流に手を加えた流用は「あり」だったと思える。

 後掲する航空図板の全景では二節のリンク式平行定規を使っているが、#10 では偵察員の七つ道具の一つとして 1 リンク、スライド式の平行定規の写真を掲載している。

 当時、透明のカバーとその上に書ける筆記用具があったのかを含めて、考証的には戦後の海上自衛隊の備品(米国規格)を使っている可能性がある。実機ではノースアメリカン SNJ-5/6T-6 テキサンの海軍型)が代理出演している。(閑話休題)

 さて、気になるのは6隻の空母から集まった編隊を組み進撃進路に入るシーンで飛行士が「偏流確認、進路一七八度」と伝え「進路一七八度、宜候(ヨーソロ) 」と操縦士が応えている。

 たしかにこの時、機動部隊はハワイへ、真北(0度)から真南(180度)に向かって接近していたがこのあたりの磁偏差は+11度程度あるはずで航空羅針儀の指針は、

  地図の真方位180度 - 磁偏差+11度=進路(磁方位)169度

 魚雷を搭載した九七式艦攻の巡航速度を諸元表通りの142kt、偏流修正値が+9度なら横風成分を真西として、風速10.4m/sec (時速37.4km)となるにはなるが、地図の真方位に合わせるために羅針儀の目盛盤自体を-11度回転させて磁偏差(+11度)を吸収して修正していたのかもしれない・・・?? ちなみに、このシーンの兵装は外装の八百瓩の魚雷でした。重量と抵抗で速度が低下すれば風はさらに速くなる。

 さらに厳密に言うと偏流(風)を受けている機体の軸線に固定した羅針盤の進路を示す線と風上に向けた機体の進行方向は異なっており、これも加味した修正針路かもしれず、どうにも分からなくなってくる。

 もっとも、この後のオワフ島に接近する時間には「左15度雲の切れ間」、「右30度海岸線」と地文航法のやり取りが始まる。

 推測航法のおさらいとしては、映画の脚本と小道具の考証は台詞と地図の関係を含めて正しいのかどうかの疑問がある。

・・・ここ重要ですが以降に詳しく・・・

Photo_20201030225401(参考)「トラ・トラ・トラ (1970)」のUS公開版のDVDより

 同じく九七式艦攻の飛行士(飛行隊長淵田中佐/田村高廣)が見ている航空図板と航空図だが、どちらも当時の米海軍が使用していた機材と思われる。

 図板の定規の形状は何となく #8 に似ているようにも思える。ただ、右手使いには扱い辛いようだ。

 航空図板の上下を逆に置いて地図図を張り付ければよいのだが、画面の構図上の理由かもしれない。 予定針路の書き込みはないようだ。

 地図で注目すべきは、やはり経緯線の交点を中心とする方位円があり、その内側に時計回りに回転した直交座標が内側の二つの円に対応して磁方位を示しており、外側の方位円は地図上の真方位を示している。この角度は磁方位の偏差と呼ばれる。

 磁方位の偏差とは、羅針盤の磁針が指す地球上の南北の磁極点はそれぞれ時間をかけて移動しているため、とりあえず不動点と呼べる地球の自転軸の中心点を地図上の両極点とする原則に合わせるために修正する偏りを示す角度です。 なお、この磁偏差は地図上の場所によっても年によっても異なっている。

 さて、この映画の地図自体は水深を示す数値も書き込まれているので海図かもしれないが、1942年当時のハワイ周辺の磁方位の偏差はほぼプラス11度であり、それなりの時代考証はしているようだ。

 航法に使われる角度差には、ほかにも自差なんてのもあるけれど、これらは後ほど・・・。上二枚の画像は重要です。次回で詳しく・・・

2 航空図板を偵察席計器盤の覆いに立て掛けている。 先の作図作業は偵察員の座席の前にある水平の机の上で行う。(以下偵察機での呼称の「偵察員」、「偵察席」に合わせます)

 零式水偵11型の偵察席の計器盤にある計器は、左から航路計精密高度計二型一号速度計三?型旋回指示発信機(中央)、秒時計大気温度計がある。そのほかには偏流測定を兼ねた爆撃照準器方位測定器がある。

 航路計は操縦席にもある扇型に動く指針の計器で、目盛りの中央を 0 左に(-)右に(+)の文字のみがありループアンテナを機軸に合わせて指針を 0 に合わせて飛べば母艦か基地に(あるいは正反対の方向に)たどり着ける。 先の映画「トラ・トラ・トラ 」ではこの計器をホノルルの放送局の周波数に合わせていた。

 羅針儀は操縦席の計器盤の中央下部に航空羅針儀二型改とその上に定針儀、その左に自操定針儀装置があるが、偵察席にも航空羅針儀があるとした資料もある。(以上 #1011参照)

 航空羅針儀二型改は偏差を修正できるジャイロ・コンパスなので連動する定針儀が偵察席にもあるのかもしれない。

 これで #8 で生じた上記の疑問は解決するのだが、ハワイやミッドウェーの作戦時に採用されていたのか、攻撃優先の日本海軍で偵察機にも装備させていたのかは今のところ分からない。 (2020/11/16 修正)

 いずれにせよ、羅針儀(磁気コンパス)は「利根四号機の謎」のキーとなっています。 したがい、少し深掘りした一般的な「羅針儀」の知識を次回独立して挿入する予定。・・・挿入しました。(2020/11/15)

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1_20201030225401

 時は進み、ミッドウエイ作戦で敵艦隊発見の情報が入った直後の空母飛龍の飛行甲板に集まった飛行隊員達。

 右端の飛行士が上下を逆に抱えている航法板上の作図に使う角度を変えられる定規が常に板上を平行に動く二節の平行リンクのメカニズムを使っているのが分かる。いわゆるドラフターと呼ばれる、当CEOも若き日に使った製図版と同じですが今も使っているのかなあー。

 この機構が暴れないようにバンドで止めているなど細かい考証をしているようだ。

 ただし、前記のように、日本海軍の装備品と同じかどうか不明であり、海上自衛隊の米軍支給品の可能性が高い。

2_20201030225501  右では赤城、加賀、蒼龍は既に敵艦載機の急降下爆撃による被弾で戦闘能力を喪失しています。

 飛龍艦攻隊の隊長(鶴田浩二)とペアを組んでいた飛行士(夏木陽介)は第二分隊の隊長へ移動の命令を受け、今生の別れとなります。日本海軍では三人でもペアと呼ぶようです。

 考証と言えば、ミッドウェー作戦では夏木が抱えている航法板でも白地図のようだが作図上からは方眼状の経緯線と方位環がある白(地)図と考えられる。

 したがい、利根四号機の場合でも、誰かが利根の航海用の海図台にある基本となる海図からこの白図の方眼の中にミッドウエイ環礁と発進時の利根の位置の相対関係を正確に転記する必要がある。この間に何人かの作業が入っているかどうかは分からない。 

全くの白紙が使われたとの証言もある。・・・ここが重要です。次回以降に詳しく・・・

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さて、参考にした映画「太平洋の嵐」は、上記のような細部の疑問は置いても、白昼堂々と?漁船群に見送られてミッドウェーに向かうシーン、格納庫やガンルーム(士官室)の映像など、それなりに時代の考証を尽くしているようです。

しかし、脚本ではストーリーの進行上で飛龍飛行隊の主役ふたりがハワイからミッドウェーまで旗艦赤城の飛行隊長を差し置き攻撃隊長機に乗っているなどの人物設定は実話ベースの作品とも言い難く、中でも赤城の艦橋にいる参謀たちは(東宝男優の勢揃いとは言え)右往左往で勝手に喋るだけでは誰が誰やらを推定するのもあほらしい。が、案外これが実態だったのかもしれないけど。

いっぽう、映像では発艦のために風上に向かって全力で走る(とは言え浜辺に組んだオープンセットの)空母の実写部分では軍艦旗も信号旗も吹流しも垂れ下がったままでは(特撮パートでも「はためき」感を出すのは難しかったようだが)無事に発艦できるのか心配になってくる。

さらには、ミッドウェー陸地攻撃の艦攻隊が爆弾でなく魚雷を抱えていたり(さっさと艦船攻撃に向かえよ ! )、鶴田浩二以下俳優3人のペアが演技するコックピット全体を外から写す場面では、背景にあるはずの雲が消え光学合成用のブルースクリーンのままだったりと突っ込みどころは満載です。

ただ、外形はよくできている張りぼての機体のプロペラが回り始めると機体全体が(もちろんあり得ない動きで)振動を始めるのですが、当CEO には「CGに比べれば妙にリアルだな」と感じられましたよ。

いずれにせよ、海軍士官で戦争を経験し僧侶でもある松林宗恵監督の戦争への無常観と同時に、戦争は終わって日本人もよく頑張ったなと国民の意識が変わりだす時代の映画でもあります。

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